これだから、町中華巡りはやめられない。
そんなことを感じさせてくれる店に出会った。
店の名は、「一番」。
その場所は、荒川区の東尾久。ただ、JRの「尾久」駅からは2kmくらいあり、千代田線「町屋」駅からの方が近い。
東京さくらトラム(都電荒川線)の「町屋二丁目」駅からは100m程度なので、ほぼ町屋、と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
いずれにしても、一見地味な町中華で、どこにでもあるような店に見える。
ところがどっこい、これがとんでもない店だったのだ。
店の入口には、町中華ならではのショウウインドウがあったが、その一番下の段に…。
さりげなく、周富徳の色紙が飾られていた。
こんなところに飾っておくのはもったいないほどの、有名シェフ色紙だ。
しかし、店内に入ると、さらに驚く。
中華の鉄人、陳建一の色紙。
さらに…。
和の鉄人である道場六三郎とフレンチの鉄人・坂井宏行のコラボ色紙まであった。
これが、高級レストランに並んでいるというならば、話はわかる。
しかし、この店は、テーブルが4つ並んでいるだけの、小さな町中華店。
そう考えると、不釣り合いであるかのような色紙だ。
いったい、どういう経緯でこれらが飾られているのだろう。僕は、やたらと多いメニューを眺めながら、そんなことを思った。
メニューはとにかく多種多彩で、本格的な一品料理から、ちょっとした前菜まで、何でもあり、といった趣。
しかも、これらのメニュー表だけではなく、壁にも、季節メニューがずらっと並んでいた。
燦然と輝く鉄人色紙の下に、本格的な一品料理名が並ぶ。
この時点で、ようやく僕は、「ここは、ただの町中華ではないぞ」と思い始めていた。
まず、とりあえずはビールを注文。
ビールには、ちょっとしたザーサイがついてきた。
塩加減が絶妙で美味しかったが、これだけでは、ビールのアテとして不十分なので、メニューの中から、簡単に出てきそうな前菜を注文することにした。
ちょっと迷ったが、「彩り野菜サラダ」と「もやしの黒胡椒あえ」を注文。
出てくるまでに、ちょっと時間がかかったので、僕は、一瞬、注文を忘れられたのかと思った。
このままではビールの「気」が抜けてしまう。
督促をしようかと考えていた矢先、それが出てきて、ちょっと驚いた。
彩りサラダ。
まさに、その《彩り》が素晴らしい。味付けも絶妙で、オリーブオイルが効いている。
中華ではなく、洋食店のサラダであるかのようだった。
見た目よりもボリュームがあって食べ応え十分。最高だ。
メニューには、蒸し鶏や海鮮のトッピングもできる旨が記載されていたが、食べてみて納得。
このサラダに鶏や海鮮をトッピングすれば、それはもう、豪華な一品料理になる。
もやしの黒胡椒和えも絶品。
もやしは茹でたてだし、キャベツや水菜との相性も抜群。黒胡椒のきき具合も完璧。
僕は思わず唸ってしまった。
これらの料理は、単なる前菜のレベルを超えている。400円台の前菜としては文句のつけようがない。僕は、そんな思いを抱いた。
前菜でこのレベルならば、一品料理はさらに期待できる筈。
折角だから季節メニューから選んでみよう。
どれもこれも美味しそう(しかもリーズナブル!)で、大いに迷ったが、カキのシーズンに突入したので、右端にある《カキと季節野菜のオイスターソース炒め》を注文した。
前菜に舌鼓を打ちながら、ビールに酔いしれていると…。
カキと季節野菜のオイスターソース炒め、登場!
接写しすぎてしまったため、ちょっとわかりにくいのだけれど、そのビジュアルは実に魅力的。
そしてその味は、見た目を超えた超絶。
火の通り加減、脂の乗り具合、オイスターソースの風味。なにもかもが申し分ない。
季節野菜たちは、シャキシャキ感をしっかりと残しながら、ソースと脂をしっかり吸収して、絶妙の風味を醸し出す。
そして、牡蠣がこれまた圧巻。素揚げに近い形で、噛みしめると、ジューシーな牡蠣の風味が溢れ出す。大ぶりのものが5つぐらい入っていたので、ボリュームも十分。
いやぁ、まさか町中華で、こんな本格的な中華料理が食べられるなんて。
僕はちょっと感動してしまった。
流石、鉄人色紙はダテじゃない。そんなことを感じさせてくれる店だ。