営団丸の内線「南阿佐ヶ谷」駅から、徒歩数分。
青梅街道沿いに、その店はある。
店の名は「えのけんラーメン」。
ちょっと軽い感じの店名で、チェーン店のようなイメージさえあるけれど、実際は大きく異なる。
この店は、昭和45年創業の歴史ある店なのである。
入口の看板には「ラーメン、ギョーザのうまい店」と書かれており、「絶品」という文言まで加わっている。
これは期待できそうだ。
入店。
注文は食券制。
トッピングの種類がたくさんあるラーメン店ではよくあるケース。
全メニューのうち、3種類が、とりわけ強力にプッシュされていた。
みそラーメン、餃子定食、そしてスタミナ丼だ。
この店は、おつまみメニューもたくさんあったので、おつまみと一緒に餃ビーというのも魅力的。
しかし、この日僕はちょっと所用があって飲めなかったので、餃子定食を選択。
950円という価格は、餃子定食にしてはちょっと高いような気がしたのだけれど、それは大きな誤解だったことを後で知る。
券売機の後ろの壁には、六代目三遊亭圓生のサインが飾られていた。
落語好きなら知らない人はいない、昭和の大名人だ。
僕は、学生時代に落研だったから、もちろん圓生の落語はよく聞いたし、その巧さに痺れたことを思い出す。
そんな凄い名人のサインが、地元のお客さん(?)による色紙や手紙に挟まれて飾ってあるのが、何だかちょっと興味深かった。
店は結構奥行きがあって、カウンター10席と、テーブル席2つ。
僕は11時の開店直後に入店したので、まだ空いていた。
11時の開店から、翌深夜1時までの通し営業なのだから凄い。
その営業形態で昭和45年から続いていると言うことは、相当な繁盛店なのだと思う。
これは大いに期待できそうだ。(実際、僕が食べている間に、どんどん席は埋まっていった。)
僕は、やおらカウンターの奥に座る。
カウンターから入口を眺めたところ。
食券制のラーメン屋となると、殺伐とした雰囲気になっている店もあるのだけれど、この店は、接客も良くて、とても温かい印象を受けた。
その印象は、料理が出てくると、さらに強まることとなる。
漫画の本棚と雑誌、新聞ラック。
こういったものを置いている店はよくあるが、個人的に気になったのは、本棚の上に載っていたモノ。
なんと、iPod nanoではないか。懐かしい。
どうやらこれで店内の音楽を流しているようだ。なんだかいい感じ。
待つこと10分程度だろうか。
僕の目の前に、それらが登場した。
餃子定食プラスα だ。
メニュー名は単なる《餃子定食》なのだけれど、そんなシンプルなネーミングじゃ勿体ないぐらい、豪華な布陣だった。
看板メニューの餃子は、もちろん手作りで、そのひとつひとつがビッグサイズ。
1人前6個が、実に雑然と盛り付けられている。
裏返しになっていたり、立っていたり、まともに並べようという意思が感じられない。
でも、それが逆に魅力的。
手作りならではの、ワイルドに生きている餃子、という気がするからだ。
そんな餃子の隣には…。
自家製のチャーシューとナムルが添えられている。
これだけで十分おつまみになりそうだ。
この他に、別途漬物の小皿もある。
熱々の味噌汁つき。
しかも…。
玉子とわかめがたっぷり入った、具だくさんの味噌汁だ。
ラーメン店で、ここまで本格的な味噌汁が出てくるなんて。ちょっと感動。
まだある。
なんと、カレーまでついてくるのだ。
ごはんに《ちょいかけ》できるぐらいの程度の量しかないけれど、メインのおかずではないのだから、これぐらいがちょうどいい。
餃子に飽きたらカレーもね♪という感じで食べられるからだ。(僕は飽きることなんてないけどw)
カレーには、角切りのジャガイモやにんじんが入っている。
肉こそ入っていなかったが、サイドメニューにして、その存在感は十分示していると思う。
メインである餃子の味もいい。
大きくて、もちもち、カリカリの皮。たっぷりの具。
肉と野菜のバランスもとれている。
実に食べ応えがある本格餃子だ。
餃子と一緒に、手作りの味噌だれが添えられてきた。
そして、これがまた実に良かった。
餃子自体は、それほど下味がついておらず、シンプルなので、甘い味噌だれの味を受け止めている。
いやぁ。お腹いっぱい。
+αが凄すぎる上に、メインの餃子も旨いのだから文句なし。
店の雰囲気も、気取りがなくて最高。
心もお腹もいっぱいになる、実に素敵な餃子定食を味わうことができ、僕は、ちょっと感動してしまった。
他の常連客が注文していた、具だくさんの味噌ラーメンや、スタミナ丼も気になるので、ここは、是非またお腹を空かせて再訪したい。
帰路。
あまりにお腹が膨れたので、帰りはJRの阿佐ヶ谷駅まで歩くことにした。
駅までは、阿佐ヶ谷パールセンター(商店街)が繋がっていて、200軒以上もの店が並んでいるから、700mの道のりも全く飽きない。
腹ごなしのぶらり歩きも実に楽しかった。
阿佐ヶ谷は実に素敵な町だ。