時を遡ること、3週間前。
9月23日、ベルリンマラソン当日。
僕らは、ツアー会社から支給された、お揃いのポンチョをかぶって、ホテルの前に集合した。
ちょっと肌寒く、小雨がぱらつく朝。
晴天の下でベルリンの情景を楽しめそうにないのは、ちょっと残念だったけれど、レース環境としては悪くないし、暑すぎるよりは断然快適だと思った。
僕らの滞在ホテルからスタート会場までは、徒歩で約15分。
その途中には、ベルリンマラソンのフィニッシュ直前にくぐる(筈の)ブランデンブルグ門があった。
弥が上にも、気分は高まる。
スタート会場内に入場!
雨は、もうほとんど止んでいた。僕らはここで何枚かの記念写真を撮り、それぞれのブロックにむけて、別れることになった。
皆、お互いの完走を、そして、ベルリンを楽しもうと誓って。
スタート5分前。いよいよ興奮が高まってきた。
僕は、前日まで、いや、当日の朝になっても、まだ脚の不安が残っていたけれど、ここまできたら、もう覚悟を決めるしかない。
泣いても笑っても、僕は、まもなくベルリンマラソンを走るのだ。だったら、燃え尽きるまで楽しんでやろうじゃないか。そう思った。
レースは、3段階のウェーブ(時差)スタート制をとっており、僕が割り当てられたのは、第1ウェーブ。
ウェーブ内のブロックは、最後尾のEブロックだったので、スタートラインは遙か前方。
しかし、それでも、世界に名だたる一流アスリートたちと、時差なくスタートできるのはとても嬉しかった。
スタート7秒前。
前方のスクリーンに、トップ選手たちの姿が映し出された。画面の中央に映っているのは、このレースで栄冠を勝ち取ることになる、キプチョゲだ。
号砲が鳴った!
一斉に、空へ舞い上がる風船。いよいよ、ベルリンマラソン2017のスタートだ!
Eブロックゆえに、しばらくは全く視界が開けず、スタートラインを通過するまで、かなりの時間を要した。
しかし、いざ、そのラインを超えてからは、夢のような記憶しかない。
僕は、やっぱり、思ったようにスピードを上げることはできなかったけれど、そのぶん、ベルリンの街を楽しんで走ろうと決めた。
そして、それは、想像以上の楽しさだった。
雨に霞む街並。
でも、それはそれで、とても趣きがあって素敵だったし、さらに…。
そぼ降る雨の中、街の至る所で、音楽を演奏してくれる人たち。
こんな情景、そして、音楽の数々に、僕はどれだけ力をもらったろう。
いやぁ、感動したーーーっ!
僕は、素晴らしい音楽に加え、数多くの声援にも助けられ、そのたびに、しばし、痛みを忘れた。
後半は、思うように脚が上がらず、かなり苦しかったのだけれど、でも、決して歩くことは考えなかった。
僕は、歩くためにベルリンに来たんじゃない。走るために来たんだ!と、思ったからである。
そして、その力をくれたのは、間違いなく、ベルリンの街、音楽、そして、応援だった。
あぁ、ベルリンマラソンを走って良かった。ここで走れて良かった。心から思った。
40km地点は、這々の体で通過。
流石に僕は、余力を殆どなくしており、残っているのは気力だけ。しかし、もう、ここまで来ればゴールしたも同然だったし…。
フィニッシュライン直前には、僕に大きな力を与えてくれるシンボルが待っていた。
ブランデンブルグ門。
あぁ、僕はついに、ここに帰ってきた!戻ってきたんだなぁと思うと、猛烈な感動がこみあげてきた。
この門をくぐれば、フィニッシュまでは、もう1kmもない。あとは、もう、ウイニングランの気分だ。
僕は、興奮を抑えきれないまま、最後の気力を振り絞って、門をくぐった。
そして。
ゴーーーーーーーーーール!
記録は、北海道マラソンよりもさらに遅く、4時間を大きくオーバーしてしまった。7年前の初フルに次ぐ、自己ワースト。
しかし、今回、そんなことは問題じゃない。
何よりも、ベルリンマラソンを完走した、ということが僕にとっては大きな財産。
タイムなどはどうでも良いと思えるくらい、素晴らしい感動に酔いしれながら走ることができたからだ。
いやぁ、本当に最高だったなぁ…。