僕は、百田尚樹氏の著作を、これまで読んだことがない。
そして今後も、その著作とは無縁で生きるだろう。
とにもかくにも、この作家の人間性(挙動、発言、その他いろいろ)が、どうにも好きになれないからだ。
百田氏は、ベストセラーを多数生み出しているから、人気作家と言えるのだろうし、実際、いい作品もあるのかもしれない。
僕は、根本的に「著者の人間性」と「作品の価値」は別に論じられるものだとは思っているから、それは否定しない。
だから単に、僕の《読まず嫌い》ということもあり得る。
ただ、もともと僕の好きなジャンルの作家でもないため、無理して読む気も起きなかった。
僕とは違う世界に住む作家と割り切って、その存在を無視していくつもりだった。
しかし…今回ばかりは、やっぱり見過ごせなかった。
僕のTwitterタイムラインに、目を疑うようなツイートが、次々と流れてきたからだ。
それもその発端が、伝統ある文芸出版社、新潮社のツイートなのだから驚いた。
百田尚樹の最新小説『夏の騎士』をほめちぎる読書感想文を募集!
このアカウントをフォローの上 #夏の騎士ヨイショ感想文 をつけて
感想をツイートして下さい。※ネタバレは禁止
百田先生を気持ちよくさせた20名の方に、ネットで使える1万円分の図書カードを贈呈!
『夏の騎士』をほめちぎるヨイショ感想文募集?
著者を気持ちよくさせた人に図書カード??
本当にこれは、新潮社のTwitterアカウントで書かれたものなのか?
乗っ取りにでもあったのではあるまいか?
そう思った。
しかし、これは事実だった。
同社のツイートには、文章だけでなく、キャンペーン画像もついていた。
しかし、それを僕のブログにそのまま貼るのは、生理的に耐えられないので、引用からは外させてもらった。
イメージとしては、こんな画像だ。
モザイクの部分には、金粉を塗った裸の著者が、図書カードと著作を持って、ニタッと笑っている姿が写っている。
はっきり言って、正視に耐えなかった。一体何なんだ。この茶番は。
僕は、図書カード目当てのヨイショ感想文ツイートで、快感を感じる著者の心理を想像し…背筋がゾッとした。
このノリから考えて、著者からの売り込みということも十分あり得る。
しかし、たとえそうだとしても、そのアイデアに「乗って」しまった時点で、出版社も同じ穴の狢だ。
これが、数々の名作文芸書を生み出してきた、伝統ある新潮社のやることか…。
僕は、本当に悲しくなってしまった。
唯一の救いは、Twitter上で、「#夏の騎士ヨイショ感想文」のハッシュタグが、まともに機能していないこと。
出版社が募集しているヨイショツイートは皆無。
このタグをつけたツイートの殆どが、出版社や著者をディスる内容となっていて、さながら大喜利大会の様相。
いやぁ、同じことを思っているのが僕だけじゃなくて、ホッとした。
やっぱりみんな、この企画には不満を感じているのだ。
まぁ、これも含めて「話題になれば勝ち」だという、いわば炎上商法なのかもしれない。
本が売れない時代、何でもありということなのかもしれない。
しかし、僕は、他ならぬ新潮社にはそんな売り方をして欲しくなかった。
だからやっぱり、とても悲しい。
【追記】(10月6日)
大喜利大会が収集つかなくなったためか、1日で中止になった。
出版社の当該ツイートは既に削除されて、その代わりにお詫びのツイートがされている。
「夏の騎士ヨイショ感想文キャンペーン」についてお騒がせをし、申し訳ございません。多くのご意見を受け、中止とさせていただきます。
尚、既にご参加済みの方に対しては、追ってアナウンスさせていただきます。
今回皆様からいただいたご意見を真摯に受け止め、今後の宣伝活動に活かして参ります。
企画が中止になったのは(不快な画像を見なくて済むため)喜ばしいことだけれど、このツイートにもやっぱり不満。
何ら具体性がなく、お詫びテンプレートに当てはめただけ、という気がするからだ。
同社宣伝部が公式に発表したコメントも酷い。
読者の皆様に楽しく参加していただこうとした宣伝手法でしたが、当方の意図とは違う形で受け取り、不快に思われた方がいらっしゃったとしたら遺憾に思います(共同通信)
遺憾に思います??
「遺憾」というのは謝罪の言葉ではない。
要は、自分たちの宣伝手法は《間違っていない》が、違った意図で受け止められてしまったことが《残念である》と言っているだけ。
宣伝部がそんな神経でいる限り、いずれまた、同じ失敗を繰り返す気がする。
あぁ、僕の大好きだった新潮社、文芸の雄である新潮社とは、もはや別物になってしまったんだろうなぁ…。
僕は、それがとっても遺憾だ。