東急大井町線「尾山台」駅から、街路樹と石畳の《ハッピーロード尾山台》商店街を、ぶらぶら歩いて、5分程度。
そんな場所に「太平楽」は存在する。
一見、よくありがちなラーメン屋風の佇まいなのだけれど、1975年創業の歴史ある町中華。
創業50周年になろうかという老舗なのだ。
店名の右に書かれている「とんかつ」という表記が目を惹く。
どうやら、とんかつも看板料理のようだ。
ちょっと珍しい組み合わせだったが、これだけならば、僕的にはスルー案件。
しかし…。
「当店自慢 生ぎょうざ」の表示もあった。
そう。
この店は、餃子も看板料理なのだ。
僕は、その情報を得た為、尾山台に所用があったついでに、この店を訪れることにしたのである。
…ということで入店。
店内は、カウンターのみ7席。
歴史ある店なのだけれど、改装したのか、店内はモダンな雰囲気で、古くさい感じはしない。
丸椅子は、スプリングを搭載しており、座るといい感じに沈んだ。
カウンター上のメニューを眺めてみる。
餃子とビールの注文はデフォだが、その相棒を、ラーメンにするか、とんかつにするか少し迷った。
とんかつを食べる予定で入店したのだけれど…。
青森にんにく入り焼餃子(風味豊か!)に並んでPRされていた「ふのり入りラーメン」が気になったからだ。
健啖家の人ならば、餃子、とんかつ、ラーメン3種を全て注文するのだろうが、ひ弱な僕の胃では無理。
…悩んだ挙げ句、僕は、初志貫徹でカツを選ぶことにした。
《おつまみ》メニューの中から、一口カツ(780円)を注文。
餃子とカツだと、ちょっと胃もたれしそうだなぁという気もしたけれど、珍しい組み合わせの誘惑に勝てなかった。
料理が出てくるまでの間、ぼーっと店内を眺めて見る。
カウンター背後の壁には、アジア的な写真がいろいろと飾られており…。
ヒマラヤ山岳写真集の表紙も飾られていた。
僕は、アジアのこういった風景が好きなので、ちょっと心を惹かれた。
壁には、立松和平さんによる朝日新聞の書評も掲示。
この写真集と、この店はいったいどういう関係があるのだろうと考えていると…。
焼餃子が登場!
とんかつもやってきた!
ビールとの競演。
おつまみメニューのとんかつは、「一口カツ」と銘打たれていたが、ほんとに一口レベルだったことに驚いた。
値段(780円)的に、一口とは言っても、それなりのものが出てくると思ったからだ。
餃子も、やや大ぶりとはいえ、580円するので、かなり強気の設定だ。
ただ…。
食べてみるとそれなりにこの価格には納得がいった。
カツは、パン粉から手作りとのことで、サクサク感が絶妙。
餃子も、皮から手作り。
焼きはちょっと甘い気がしたが、皮の旨みがしっかり感じられて、もちもちで美味しい。
そして何より、ニンニクが強烈だった。
ただ、クセはそれほど強くなく、確かに風味が豊か。流石は本場青森産にんにくだなぁと思った。
食後、壁に掲示されていたヒマラヤ写真の件について、店主に尋ねてみたところ…。
なんと、店主自らがヒマラヤのザンスカール地方に訪れて、撮影したものだというではないか。
この本の作者(山田正文さん)が、店主だったのだ。
これが自費出版の本ならそれほど驚かないが、山岳写真系の出版社として名高い、山と渓谷社発行であり、しかも、朝日新聞で立松和平氏の書評まで出ているのだから、凄い。
書評効果は絶大で、発刊当時、結構売れたとのこと。
店主は、本を持ち出して僕に見せてくれたのだけれど、素敵な情景と人物の写真が満載で、痺れてしまった。
ヒマラヤ遠征中、この店(太平楽)は、奥さんがきりもりをされていたとのことだが、中華店を営みながら、こんな写真集まで上梓してしまった店主に感服。
話好きの店主から、いろいろと興味深い話が聞けて、とても楽しかった。
尾山台には、また行く機会があるので、今度はラーメンも味わってみたい。