池袋駅北口から、約5分。
劇場通りの脇道を入った所に、その店はひっそりと存在している。
店内はたった6席。
2人掛けのテーブルが縦に3つ。鰻の寝床のような造りだ。
とにかく狭くて、人がすれ違うこともできない。
そんな狭い店の壁には、紹介記事を載せた雑誌がズラリ。
池袋エリアの餃子特集では、必ずといっていいほど取り上げられる有名店なのだ。
その理由はこれ。
18色のカラフルな皮に包まれた、手作り餃子があるからだった。
その具材も多種多彩。
数十種類のものが壁に掲示されていた。
僕は、さて、どんな具の餃子を食べようか…と眺めていたが、そんな思いは、ママさんのひとことで大きく覆される。
「今、うちは、カラフル餃子しか出せないの。」
このリストにある「店内」から、6個~20個のどれかを選んで欲しいとのこと。
「変わるのは個数だけ。全部お任せね」
餃子の具材を選ぶことはできず、しかも、多く注文すると得になるわけでもない。
僕は、なんだかなぁ…と思ったけれど、ここまで来たら後に引くのは困難だ。
仕方なく8個を選択。
焼き上がりには10分程度かかるということで、それが出来るのを待っていた。
壁には、ルーローハンや腸詰め、ちまきなどの表示が書かれているし…。
この店の紹介雑誌群に紛れて、こんなメニュー表もあった。
しかし、これらは一切出せないとのこと。
今日はたまたまそういうことなのか?とも思ったが、食べログなどのレビューを見ると、やっぱりカラフル餃子以外は注文できないようだ。
僕は、まぁ、餃子さえあればいいので、特に困らないのだけれど、がっかりする人も多いのではないだろうか。
この分だと、ビールもないのか…?
と思い、恐る恐るママさんに聞いてみると、一応、瓶ビールだけはあるとのこと。
他のお酒は一切用意されていおらず、本当に、「必要最低限の提供」といった感じだ。
ただ、僕の場合は、どの店に行っても、基本的には餃ビー三昧なので、実はあまり問題がなかったw
ということで…。
待つこと10分程度。
餃子が出てきた!
確かにカラフル。ビジュアル面だけを見れば、悪くないと思う。
ビールとの共演。この構図もいい。
ただ、ここでまた衝撃の事実が発覚する。
ブログへの紹介用として、僕が、「それぞれの具は何ですか?」と聞いたら…。
「それは教えられない」
と、言われてしまったのである。
別に隠し味などを聞いているわけじゃない。なのに、なぜ教えられないんだ。
壁に貼ってあったメニューでは、たくさんの具が紹介されているじゃないか。
そのどれにあたるかを教えてくれればいいだけなのに、なぜ。
僕が疑問の表情を見せたせいだろうか。ママさんは続けてこのように言い添えた。
「皮と具の組み合わせは決まってないの」
「包んでいるのは私じゃないし。」
「今日は、私が包むの手伝ったブルーの餃子だけわかる。ナスの餃子ね。」
「でも、また今度来たら、ブルーの中身は違うの」
「ブルー以外の餃子は、同じ色でも具はいろいろ」
ということで…。
僕は、だいたいの事情がつかめてきた。
要は、皮と具の組み合わせは決まっておらず、しかも、餃子を作成している(この日は不在)女将さんは別におり、焼いているママさんは、基本的に中身がなんだかわからない!と言う事実。
要は、「教えられない」という意味は、「秘密なので教えることができない」というわじゃなく、「私は中身を知らずに焼いてるだけだから、わからない!」ということのようだ。
それにしても…。
メニューが1種類しかなく、しかも、具の中身が全部わからず、それで商売になっているのだから、凄いなぁ。
じゃぁ、せめて皮はわかるだろう。と思って聞いたが…。
「オレンジの皮は、なんなんですか」と聞くと、「そのときによっていろいろ。」とのすげない返事。
僕は、もう質問をしても無駄だと思って、餃子を食べることに専念しようと決めた。
餃子の味自体は悪くなかった。
ちょっと高い(1個125円)が、ボリュームもあるし、値段分の価値はあると思う。
色のイメージから、野菜系の餃子なのかと思ったが、具の中心は肉。
どれも、肉の味がしっかり感じられて、それにナスなどの野菜風味が加わっているという感じ。
黒い餃子にはニンニクも入っていた。
個人的に、この日いちばん気に入ったのは、白い皮の餃子。
カニ肉?と思われるものがたっぷり詰まっていて、とても美味しかった。
ただ、それを追加注文することはできない(白だからといって、同じ具とは限らない)ので、どうにもこうにも…。
カラフルなビジュアルだけが救いと言えるが、その点も実はトラップがある。
僕の後に入ってきた若い女性の2人組は、ママさんに「皮の色は指定できるんですか?」と聞いていたが、「ダメね。全部お任せ。」と言われ、結局、全体的に赤っぽい色の皮だけになってしまったようだ。
いやはやどうにもハードルが高い。高すぎる。
決して不味いわけではなく、ビジュアルも含めてレベルは高いと思うけれど、自由度が低いのが玉に瑕。
餃子であれば、中身がどんなものでも構わないし、どんな色の構成でも構わない、という、餃界人向けの店だ。