今年度アカデミー賞の、主演男優賞、脚本賞受賞作品。
あの「ラ・ラ・ランド」や「ムーンライト」と主要部門を分けあった作品だから、とても気になっていた。
物語となる舞台が、思い入れの深いボストン、及び、その近郊であることも、見に行きたい理由だった。
ということで、昨晩の公開初日。新宿武蔵野館で鑑賞。
できるだけ予備知識を仕入れずに見た方がいいと思ったので、予告編も見ないで出かけたが、それが正解だった。
この、実に素晴らしい脚本を、無心で堪能することができたからだ。
いやはや、何という練りに練られた物語だろう。これは、傑作だ。
主人公である「リー」は、なぜ…?
というのが、この映画の最大の骨格であり、最初から最後まで、その心の機微を丹念に描いている。
ちょっと重たいテーマの映画なのに、ところどころに、さりげないユーモアも散りばめられていて、ぐいぐいと惹きつけられる。
前半で、ちょっとわかりにくかった部分や、「何だかなぁ…」と思っていた部分が、次々と氷解していく瞬間、僕は、心を打たれずにはいられなかった。
切なさの余韻が、後を引いて止まらない。
アカデミー賞作品賞を受賞した「ムーンライト」も、切ない物語ではあったけれど、僕が審査員だったならば、こちらに1票を投じただろう。
その素晴らしい脚本を、心ゆくまで堪能するためには、僕と同様、予備知識なしで見に行った方が、きっと、大きな衝撃と感動を味わえると思う。
だから、ブログでの紹介はこれで終わりにして、ただ、超おススメとだけ書けばいいとも思った。
しかし、内容が全くわからないまま見に行くのはちょっと…と思う人のために、公式Webサイト掲載のストーリーをご紹介させていただこう。
アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリーは、突然の兄の死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってきた。
兄の遺言で16歳の甥パトリックの後見人となったリーは、二度と戻ることはないと思っていたこの町で、過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。
なぜリーは心も涙も思い出もすべてこの町に残して出て行ったのか。なぜ誰にも心を開かず孤独に生きるのか。父を失ったパトリックと共に、リーは新たな一歩を踏み出すことができるのだろうか・・・・・・?
これを読んでしまうと、途中の展開を少し明かしている分、鑑賞時の衝撃は薄れる。
ただ、それでもなお、脚本の奥深さは残るし、十分な傑作だと思う。
パンフレットも、もちろん購入。
オスカーの主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックがとにかく素晴らしい。
主人公であるリーの孤独や悲しみを、抑えた演技で、しかし、時に激しく演じている。
リーの物語だけだと、単に重たくて息苦しい展開になりそうな話なのだけれど、それをきっちりと融和しているのが、甥、パトリックの存在。
その甥となる役を演じたルーカス・ヘッジズの演技も見事。
惜しくも受賞は逃してしまったが、オスカー助演男優賞部門候補に選ばれたのも納得だ。
パンフレットの写真を見ていたら、その余韻に浸るべく、もう1度見に行きたくなった。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は「海沿いにあるマンチェスター」という意味ではなく、全てが地名。
まさに、海と一体化した街であり、それが納得と思える、素晴らしい情景が、この映画の中には溢れている。
映画好きならば、見ておいて損はない、実によくできた傑作。
超オススメ。