その瞬間。
僕は何が起きたのかを理解することができなかった。
背中に鉄の強い衝撃が加わり、その勢いで、道に投げ出されてしまったからだ。
一瞬前まで、僕の気分は上々だった。
昨日、11月14日は有休が取得できたので、久しぶりの朝ランを敢行。
長い間走れない日々が続いていたから、ランニングができるということだけでも十分幸福だった。
しかも、真っ暗な夜明け前の道じゃなく、陽射しを受けながら走れるって、こんなに楽しいことなんだなぁ…と思った。
僕は、そんな至福を味わっていたのだ。
しかしそれが、わずか一瞬にして暗転した。
近所の商店街に入った直後。
片側一車線の狭い道で、歩道と車道の間は白線で区切られているだけ。
人通りが多い時は、走って通過するのは難しいのだけれど、朝早い時間だったため、閉まっている店が多く、通りも閑散としていた。
これならば快適に走り抜けられそうだ…と僕は思った。
しかし、その入口からほどなく進むと、歩道部分は全く走れなくなった。

こんな感じで、工事車両が延々と連なっており、歩道を塞いでいたからだ。
だから僕は仕方なく、歩道寄りの車道を進むことにした。
車も人も少ない時間だったし、それでもまぁ、問題ない筈だった。
ところが。
僕の目の前を、長いハシゴを持った作業員が、車道からトラックに向けて歩いており、それが悪夢への序章となった。
その作業員は、長いハシゴの取り扱いを持て余しているようで、右に左にふらふらしながら、僕の目の前を通過しようとしていた。
僕は「ホント邪魔だなぁ。勘弁してくれよ。」と思いつつ、その作業員をよけようと、ちょっと外に膨れた。
その瞬間。
まさにその瞬間。僕は背中に衝撃を受けて、アスファルトに叩きつけられることになったのだ。

状況としてはこんな感じ。
僕は、背中に衝撃を感じたものの、その傷みは殆どなく、倒れ込んだ時に打った左の腰と膝の方が痛かった。
慌ててドライバーが運転席から飛び出してくる。
「大丈夫?」
いや、大丈夫じゃないって。
「ブレーキかけたんだけど…急に目の前に出てくるから…」
歩道はトラックで塞がれていたし、目の前に長いハシゴを持った人まで出てきたんだから仕方ないじゃないか!
僕はそう言いたかったが、うまく言葉が出ず、「だってハシゴが…」というのが精一杯だった。
ただ僕は、運転手への恨みは感じなかった。
片側一車線の狭い道で、いきなり僕が外に膨れてきたら、よけるのは難しいだろうと思ったからだ。
ブレーキをかけてもらってなければ、間違いなく跳ねられて大怪我をしていた筈なので、不幸中の幸いとも言えた。
何より一番恨むべきは、工事車両と作業員だ。
しかし作業員は、倒れた僕のことなどお構いなしにどこかに消えていた。許せない!
通行人たちが、倒れた僕のところにきて、口々に言う。
「救急車呼ぶ?」「ぶつかったんだったら、警察呼んだ方がいいよ」
それを受けて、ドライバーの人が警察を呼び、ほどなく警官が何人もやってきた。
警官からも「救急車を呼びますか」と言われたが、前述の通り、身体についてはそれほどの重症ではないと思ったため辞退。
ドライバーの人は「ブレーキをかけました」「ほぼ止まっていたと思います」と警官に説明していた。
僕も「そうだと思います」「跳ね飛ばされたわけではなく、ぶつかって転倒した感じです」と説明した。
ただ、それでも交通事故扱いにはなるらしく、僕は、車とともに、ぶつかった時のポーズや倒れた場面など、沢山の写真を撮られることになった。
道路には、チョークで○や×が描かれ、これが現場検証というやつなのかと思った。
その後僕は…。
身分確認と状況説明を求められ、警官から、「どうします?被害届を出して人身事故扱いにしますか?それとも当事者間で協議されますか?」と言われた。
僕は、自分の後方不注意も否めない(ただ、工事車両とハシゴを持った作業員は許せない!)ということと、痛みがそれほど大きくないことを踏まえ、被害届は出さないことにした。
ドライバーの人も、ある意味被害者だと思えたからだ。
警察官は、「あとで痛みが強くなる可能性もあります。その際、やはり人身事故扱いにするということであれば、こちらに連絡して下さい」というメモを僕に渡してくれた。
後で調べてみると、僕が大怪我だった場合、人身事故扱いにしないと、ドライバー側などの保険も下りなくなるため、却って面倒なことになるようだった。
だから僕は、一応今日整形外科で診てもらい、その結果に基づいて、今後の対応を決めることにした。
もしも実は大きな怪我になっているようであれば、人身事故扱いにするけれど、そうでんなければ、自費で払って終わりにしようと思っている。
道路に打ちつけられたのが左腰だったのが不幸中の幸い。
これが、圧迫骨折を繰り返している右腰から落ちていたら…と思うと、それこそ大怪我になっていたかもしれないからだ。
左腰や膝は、まだ若干の違和感は覚えるものの、強くなっている感じはしないので、たぶん大丈夫だとは思うけれど…。
