久しぶりにロードショーで邦画を見た。
「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」だ。
原作は、ロバート・A・ハインラインが1956年に発表したSF小説。
SFファンならば知らない人はいない大傑作で、僕も、子供の頃に読んで感動したことを覚えている。
6月25日から公開されていたが、当初、僕は全く見に行くつもりはなかった。
ハリウッド映画ならばともかく、なぜ邦画なのか疑問だったし、あの小説の世界観が、日本で実現できるとは思えなかったからだ。
しかし、公開後、SF界隈の人たちの評判が非常に良く、菅浩江さんの大絶賛などもあり、気が変わった。
あの超名作を、どうやって邦画で表現したのかを確かめるべく、劇場へ見に行こうと決意した。
鑑賞前に、何十年ぶりかで原作を再読。
超久しぶりに読んで思ったことは、「流石に設定が古くさいなぁ…。」ということだった。
それはそうだろう。
この小説が刊行されたのは1956年のことで、舞台設定は1970年のロサンゼルスなのだ。
主人公のダンは、30年先の未来へタイムスリップを行うが、それでも2000年。
これはSF小説なのに、僕らにとっては、もう「遠い過去」になっていて、2000年が、小説世界とは異なっていたことを既に知っている。
ストーリーは素晴らしいので、今でも名作であることに変わりはないが、その点で、僕はどうにも《違和感》を感じてしまった。
そういった違和感を、この映画では、いったいどうやって処理したのだろう…?ということも気になり、僕は、映画館へ向かった。
僕が見たのは、先週土曜日、朝一番の上映回。
館内は超ガラガラだったため、「SFファンには評価が高くても、一般的には厳しいのか…」と思いながら、僕は、鑑賞を開始した。
119分の上映時間後、僕が最初に抱いた感想は…。
なんて素敵な映画なんだ!
ということだった。
正直に書くと、開始後20分ぐらいは違和感があった。
原作の主人公ダンは、天才技術者という設定なのだが、その日本人版(高倉宗一郎)を、山崎賢人が演じるというのは、イメージが合ってない気がした。若くて格好よすぎるからだ。
主人公は、「とある事件」による失意のあまり、やさぐれ状態になる設定なのだが、山崎賢人はスマートすぎて、どうにもやさぐれているように見えない。
ヒロイン役の清原果耶も、ちょっと可愛すぎで、甘ったるいラブストーリーになってしまったのかなぁ…と思った。
加えて、「夏への扉」を探す猫(ピート)が、あまり可愛くない感じだったので、僕はどうにも、物語への感情移入ができなかった。
が、しかし。
原作にない、アンドロイド(ロボット)役PETEを演じる藤木直人が出てきてから、印象が変わった。
登場直後は、「アンドロイドに見えないよ!」とツッコミたくなったが、人間味のあるアンドロイド(?)という設定になっており、これが実にいい味。
物語の設定も、PETEがいるおかげで、俄然わかりやすくなった。
これは、脚本の勝利だと思う。
加えて、舞台設定も見事。
原作の「1970年ロサンゼルス」を、「1995年の東京」に置き換え、ミスチルの名曲なども挿入しながら、現実と非現実を、絶妙に織り交ぜながら描く。
主人公がタイムスリップする30年後は、2025年になるので、現実よりも、ほんの少しだけ近未来。
4年後なら、こんな感じかも…と思わせるような街並みの中で、冷凍睡眠やタイムマシンという非現実のSF世界が展開されていく。
僕は、その設定にぐいぐいと引き込まれてしまった。
終わってみれば、あっという間の119分。
SFとしてしっかり成り立っている上に、笑いあり(藤木直人が面白すぎ!)涙ありのヒューマンストーリーで、僕は、不覚ながら、一瞬涙ぐんでしまった。
原作のイメージとは異なる部分も多いのだけれど、これは、間違いなく傑作だ。
パンフレットも購入。
登場人物たちの裏話などがいろいろ紹介されており、興味深い内容だったし…。
中面のページを開くと、登場人物の相関図や、30年間のタイムスリップに伴う出来事が、時系列で整理されていて、「そういうことだったのか」と思ったこともあった。
原作の設定をリスペクトしつつ、現代に合わせて描き直したところが、実に上手いなぁと感じた。
SF界隈で評価が高い理由も納得。
SFファンなら、見ておいて損はない傑作だと思う。オススメ。
【蛇足】
タイトルは、「夏への扉」であり、「夏の扉」ではない。松田聖子が1981年に歌った名曲とは、全く無関係なので、誤解のなきようw