圧巻。
いやぁ、なんという本だろう、これは。
表紙の写真を見ているだけで、そのハードさは伝わってくるのだけれど、レースの過酷さは、僕の想像を遙かに超えていた。
灼熱のサハラ砂漠でレースが行われるということだけでも凄いのに、なんと、約250kmの道程を、7日間(6ステージ)かけて走破するというのだから、ハンパじゃない。
しかも、レース中の食料、寝袋、衣服、コンパス、炊事道具など、生活に必要なものをバックパックに背負って走るのだ。
そんな過酷な大会を10回も完走した著者は、今や「超人アスリート」と言える牟田口 玲奈さん。
しかし、玲奈さんのマラソン歴はそんなに長くない。
2010年からランニングを始め、2011年に初めてフルマラソンを完走。
この過程は、奇しくも僕のマラソン歴と重なる。
僕も、全く同じ時期から走り始めて、フルマラソン完走のタイミングも同じ。
当時、僕は、ふとしたきっかけで玲奈さんと知り合うことができ、一緒に走ったこともある。
それは、横浜中華街から東京まで、餃子店を巡りながら走りづける、餃子マラニックだった。
あの頃は、玲奈さんも僕も、一緒にダラダラと、餃子を食べながら暢気に走っていた。
しかしその後…。
玲奈さんと僕のマラソン人生は、かけ離れたものになっていく。
僕は、あいも変わらず、のんびり走っているだけの餃子ランナー。(しかも最近は餃子ウォーカーになりつつあるw)
しかし玲奈さんは、2013年のサハラマラソンへの出走を決めてから、10大会連続で出場し、しかも全て完走という、超スーパーアスリートに上り詰めたのだ。
サハラマラソンの情報は、今でこそ、ネット上の各所に散りばめられているが、2013年当時は、まだまだ情報不足。
そんな中、玲奈さんは、自力で情報をかき集め、さまざまなハードルをくぐり抜け、その大舞台に立つ。
サハラマラソンに出走するためには、医師の診断書が必要とのことで、その内容が凄い。
心電図を取り、血圧や心拍数を測って診断した上で、「サハラ砂漠で、炎天下、完走した環境で6ステージ250km走ることができる状態であることを認める。」という内容に署名してもらわなければならない。
とのこと。
この文面を見て、玲奈さんが既にアスリートであることを知っていた、馴染みの先生でも署名をためらったようだ。
それはそうだよなぁ…。
しかし玲奈さんの熱意は、医師の先生の心を動かし、署名を書いてもらえることになった。
まさかその後10年も、同じ署名を行い続けることになるとは、思ってもみなかっただろうけれど。
サハラマラソン開催地である、モロッコについてからも、苦闘の連続。
何が凄いといって、現地に着くまで、走るコースがわからない!ということ。
砂漠を夜通し走るのに?250kmもあるのに?まさか?!と思ったが、それは事実。
しかも、そのコースは毎年変更になるというのだから、対策さえも立てられないのだ。
あまりに過酷だ。過酷すぎる。しかし、玲奈さんは凄かった。強かった。
初出走にして、見事に完走。
その後、さまざまな苦難があったものの、持ち前の知力・体力と、類い希なる精神力でクリア。
たとえ想定外のアクシデントがあっても、それを乗り越え、経験値として蓄積。
毎年完走を重ねていく。
2020年。コロナ禍の到来により、モロッコへの入国ができなくなり、翌年に会再延期。しかも10月開催となった大会は、本当にキツかったようだ。
完走率は、なんと50%。
サハラマラソンに出走するのは、生半可なランナーじゃない。
世界中から、サハラを目指してトレーニングを積んできた筈のアスリートたち。
その2人に1人が完走できなかったというのだから、壮絶な過酷さだ。
毎日40℃越えで、最高気温が53℃!
しかも、参加者の間にウイルス性の下痢が流行するというおまけつき。
玲奈さんも、さまざまなトラブルに巻き込まれ、大いに苦しんだ(その壮絶さは、是非とも本書を読んで確かめて欲しい。)ようだが、乗り切って完走。
いやはや、もう、本当に、敬服した。
この年だけじゃない。
他の年度でも、一筋縄ではいかないアクシデントが発生したりしているのだが、見事に乗り越えて完走。
玲奈さんは、淡々とした筆致で書き進めているのだけれど、それが逆に、砂漠の過酷さを脳裏に浮かび上がらせてくれる。
実に読みやすく、そして、心にすっと入ってくる素敵な文章だ。
この本には、サハラ砂漠を走る、さまざまなアスリートたちの姿も描かれている。
砂漠の中を250kmも走るというのに、仮装ランナーがいるという事実!
世界中には、凄い人たちがまだまだ溢れているんだなぁ…と、僕は驚愕してしまった。
読後…僕はこの本に大きな力をもらった。
とてつもなく過酷な世界に挑戦していく勇気。
そして、そこで生じるさまざまな苦難を乗り越えていく元気。
僕もまだまだ頑張らなきゃなぁ、挑戦していかなきゃなぁ…と、いう気持ちが湧き上がってきたのだ。
もちろん、玲奈さんのような超スーパーアスリートにはなれないけれど、チャレンジ精神だけは失わないようにしようと思った。
ランについて、少しでも行き詰まりを感じている人には、大きな勇気と元気を与えてくれる本であることは間違いない。
僕は、ペーパーバック版を購入したが、これはもともとKindle出版物なので、もちろん、さまざまなデジタルデバイスで読むこともできる。
嬉しいことに、Kindle Unlimited対象でもあるので、その契約者であれば、いつでもどこでも読み放題だ。
Kindle Unlimited契約をしているランナーならば、とにかく読んでみて欲しい。
きっと心を動かされる筈だし、「借り物」ではなくて「購入」をしたくなってくるだろう。
僕は今、いつでもどこでも、この本と一緒に過ごして、勇気と元気をもらっているのだ。
玲奈さんの挑戦は、サハラ砂漠にとどまらない。
去年は、Racing The Planetが主催する4つの砂漠(ナミブ、ゴビ、アタカマ、南極)マラソンを全て制覇。
南極!
いやはや、もう、凄すぎるとしか言えない。
そんな玲奈さんの挑戦記録は、noteに綴られている。
「サハラ砂漠に通う」出版にあたってのエピソードや、補遺的な情報も執筆されているので、こちらも必読。
サハラ砂漠情報は、まだまだあるようだし、他のレースの話も、本で読みたい。
続刊を大いに期待だ。