2000年の今日。9月24日。
シドニーオリンピック女子マラソンで、高橋尚子選手(Qちゃん)が、金メダルを獲得した。
…と、アレクサが教えてくれたので、今日は、そのことについて書いてみよう。
僕は今でも、女子マラソンでの「あの」シーンを鮮明に思い出せる。
35km地点手前。突然、Qちゃんは、サングラスを外して、道ばたに放り投げた。
それをきっかけに、ずっと併走してきたシモンを突き放し、金メダルでフィニッシュする。
いやぁ、あれは本当に格好よかったなぁ…。
後に本人は、自著「夢はかなう」で、こう語っている。
三十キロを過ぎて、ずっとサングラスを外したくて、だれか知っている人はいないかと、チラチラ見ていたのだ。けれど、監督も見当たらないし、捨てるのはもったいない。
そのとき、むこうに父が立って応援してくれているのが見えた。「じゃ、サングラスをそこで外して拾ってもらおう。」
そう決心したのだ。
サングラスの行方を追ったときに、シモンさんが少し離れたのが見えた。「チャンスは、今かもしれない!」 自然に足が動いていた。
スパートするためにサングラスを投げたのではなく、投げたことが、たまたまスパートのきっかけになったのだ
あの地点でスパートしたのは、たまたま、だと彼女は語る。しかし、それは本当に偶然だろうか。
僕は、運命の女神がいたに違いないと思っているし、女神が微笑んでくれたのは、それだけ、彼女に強さがあったということだろう。
Qちゃんは、そんなとてつもない強さとうらはらに、優しさと温かさを持った、聡明なランナーでもある。
現役を引退してからも、Qちゃんは、さまざまなマラソン大会で、出場選手たちをサポートしてくれている。
彼女の人柄を示す、とりわけ素晴らしいエピソードがこれだ。
僕は、この記事を初めて読んだ時、あまりに感動的で涙ぐんでしまったし、今読み返しても、痺れる。
2018年の千葉マリンマラソン。
主催者側は、レースの締切時間前であるにも関わらず、なぜか勝手にゴールを撤収し、終了させてしまった。
しかしもちろん、まだ(間に合うと思って)ゴールを目指しているランナーたちが沢山いる。
普通ならば、あとで暴動が起こってもおかしくないぐらいの手落ちだ。
SNSなどでも大変な炎上になっただろうし、翌年以降の開催もできなくなったかもしれない。
しかし、そんな運営側のとんでもない失態を救ったのは、その日のゲストランナーだったQちゃんだ。
「ごめんなさいゴールがなくなったので、わたしがゴールです」そう言って、ハイタッチをしながらランナーを止めていました。
こんなセリフ、いったい誰が言えるだろう。
引用するだけで、僕は、また泣けてきてしまった。
この時点では、主催者側は完全に勘違いをしていたようだから、Qちゃんに指示したわけではない。あくまで、彼女自身の判断で動いたのだ。
ただランナーたちを救いたいという、強い思いで、こんな咄嗟の行動に出たのだろう。
言うまでもなく、Qちゃんは、マラソン界の超スーパースター。五輪金メダリストであり、国民栄誉賞受賞者。
そんな《雲の上の存在》であるにも関わらず、全く驕ることなく、これほどの素晴らしいアクションを、いわば反射的に判断し、実行できる凄さ。
いやはや素晴らしい。本当に素晴らしすぎる。
この日、「高橋尚子ゴール」でフィニッシュしたランナーたちにとっては、一生忘れられない記憶になる筈。
彼女は、本当に、マラソンを心から愛しているんだなぁ、と思った。
そして、だからこそ、金メダルを取れたのだと僕は信じている。
あの時、運命の女神が微笑んでくれたのは、偶然ではなく、必然だったのだ。