JR巣鴨駅から、徒歩約1分。
最高の立地にありながら、その町中華は、実にひっそりと存在している。
ふたつ隣の吉野家が派手派手しいだけに、なんとも地味な印象を受けてしまうのだ。
店の名は「菊乃家」。
吉野家のイメージにつられて、つい「菊野家」と認識しがち(僕だけ?)だが、実際は「菊乃家」なので注意されたい。
店の前にはLEDの電光掲示板もあって、それなりに主張してはいるのだけれど、やっぱり地味。
間口が狭い店頭で、中を見通すことも出来ないため、入店ハードルの高さを感じ、僕はこれまで訪れることをためらっていた。
しかし今回は、意を決して(そんな大袈裟なもんじゃないけど^^;)その扉を開いてみることにした。
店頭のイメージほど、店内は狭くなかった。
カウンターが数席と、4人掛けのテーブル席が2つ。
コンパクトだけれど、小綺麗にまとまった感じがして、悪くない。
僕は、カウンター席に座り、やおらメニューを眺めてみる。
メニュー右下。
店名の上に書かれた「創業 昭和23年」という表記が、燦然と輝いている。
今年で、創業75周年!
こう見えて(どう見えて?)実に歴史ある、老舗の町中華なのだ。
店内はまだ新しい感じだったし、店員さんもそれほど高齢ではない。
だからここは、何代か続いていて、店も改装済ということなのだろう。
駅前のこの立地*1で、代替わりしながら75年も続いているとなれば、これはもう、絶対的な信頼がおける筈だ。
僕はとりあえずビールを注文。
ビールには、軽いアテがついてきた。
僕は、ビールで喉を潤しながら、引き続きメニューを眺めた。
店名の下には、InstagramへのQRコードが掲載されていたので、アクセス。
皮から手作りの餃子は、2種類の小麦粉をその日の気温や湿度に合わせているとのこと。
しかも、餃子用の焼き鍋は創業(昭和23年)から使い続けているというではないか。
期待せずにはいられない。
インスタには、手作りシューマイの記事も上がっていた。
おぉ、これも美味しそうだぞ。
なんだか普通のシューマイとちょっと違う感じで、僕は、大いに興味を惹かれた。
ということで…。
餃子とシューマイを注文することに決定。
メニューにおいては、どちらも「手作り」が強調されており、店自慢のものであることは間違いないだろう。
待つこと5分程度で、まずはシューマイが登場。
僕はその大きさに加えて、ビジュアルに驚いた。
インスタの動画に出てきたものと同じなのだけれど、実物を直視すると、そのビジュアルの異色ぶりに、あらためて驚いてしまった。
僕のイメージするシューマイは、小麦粉の皮でさまざまな具をくるんでいるもの。
しかし、いざ僕の眼前に出てきたものには、皮が全く見当たらず、細かい肉の塊にしか見えない。
いったいこれはなんなんだ?
僕の脳内には、そんな自問への答えが響いてきた。
《ひき肉でーす!》
僕は、後ろ手を打って広げたくなる衝動をぐっとこらえて、その物体を見つめた。
すると…。
その側面は、申し訳程度に小麦粉の皮でまとわれていた。
しかし、溢れんばかりの挽き肉を受け止めきれずに、大きくはみ出してしまっている印象。
ただ、そんな頼りないささやかな小麦粉の皮であっても、それがあるから、これもまたシューマイなのだと納得した。
僕がそんなシューマイの異色ビジュアルに驚いていると…
焼餃子がやってきた。
ん?
整然と並べられた餃子のビジュアルは悪くなかったが、シューマイのインパクトが強すぎたせいか、こちらは至って地味に見えた。
ただ、しっかりと手作り感は感じられる、まさに《王道》の餃子だ。
ビールとの共演。
僕はこれまで、餃子とシューマイは、「小麦粉繋がり」の親戚みたいなものだと考えていた。
しかし、その認識は改めてなければいけないかもしれない。
シュウマイは、囓ってみても凄かった。
とにかく、肉のインパクトが凄くて、ひたすら肉を食べている印象しかない。
練り込んである野菜も、ささやかな小麦粉の皮も吹っ飛んでしまうほど。
しかし、ひとたび「そういうものだ」と思ってしまえば、なかなかこれは美味しかった。
同じ挽き肉の塊でも、ハンバーグや肉団子とは明らかに違う。
「肉比率が極めて高いシューマイ」として、完成されているのだ。
ボリュームも文句ないし、僕は、かなり気に入った。
餃子は、そんなシューマイとは逆に「小麦粉の皮」が実にいい仕事をしている。
2種類の小麦粉を使って、皮から手作りしているのはダテじゃない。
小麦の風味がしっかりと感じられる。もっちり感とカリカリ感のバランスもいい。
具は、野菜が多めの優しい味で、普通に酢醤油が合う。
巨大なシューマイに比べると、サイズはかなり小ぶりだが、ビールのつまみとして食べるには絶好。
丁寧に作られた「超王道」の餃子だ。
この日、僕は餃子とシューマイしか食べていないが、どちらも、しっかりとこだわりのある料理になっていた。
創業75年の歴史はダテじゃない。そう感じさせてくれる老舗の町中華だ。
機会があれば、また是非訪れてみたい。
*1:もしかすると、どこか他の場所から移転してきているのかもしれないが、未確認。