僕の1日は、猫とともに明けていく。
毎日、夜明けの時刻から走っていた理由は、もちろん、走ることが楽しかったということもあるけれど、それだけじゃない。
ランニングロード内の公園にいる、野良猫に会いたかったという理由が大きい。
だから、いつも決まって同じ道を走った。僕が走っているのは、かなり早い時間なので…。
こんな風に眠っていることが多かった。
けれど、僕が寝顔の写真を撮っていると、目覚めることもあり、色々なポーズで癒してくれた。
本当に人なつっこい猫で、近寄っても撫でても逃げない。それどころか、僕がテーブルの横の椅子に座ると、膝の上に乗ってきたりもした。
いったん乗ってくると、しがみついて離れなくなるので、再び走り出すのに、苦労したことを思い出す。
雨の日はちょっと寂しかった。
僕は基本的にどんな天気でも走るし、夏などは、むしろシャワーランになって爽快なので、気持ち良く走ったが、いつもの猫は当然いなくなってしまうからだ。
しかし…。
こんな風に、椅子の下で雨宿りしていることもあった!
僕は、「きっと、僕を待っていてくれたのだ」と、勝手に妄想し、とても感激したことを思い出す。
人なつっこいだけに、人気も高く、夜明けの時間であっても、誰かに構ってもらっている姿を何度も見かけた。
お姉さんやオバさんと一緒なのは微笑ましかったが、男の膝の上に乗っているのを見た時は、ちょっと悔しくて、嫉妬までしてしまったほどw
最近は全く見かけなくなってしまったのだけれど、そういう時は以前にもあったし、気まぐれで今は姿を見せないだけだと思っていた。
公園では、時々餌をもらっていたようだったので、いずれまた姿を見せてくれると信じていたのだ。
ところが…。
そんな僕の期待は、思わぬ衝撃で打ち砕かれることになった。
昨日の夜明け前ランの時のこと。
僕は、「今日も、あの猫はいなかったなぁ」と思いながら、ランニングロードを走り続けていると、散歩をしている女性を見かけた。
何回か、公園で、猫と一緒にいた若い女性だ。「この猫、ほんと、人なつっこくて可愛いですよねぇ」とか、世間話も結構した。
その女性の膝の上に乗っていたりするときは、「写真、撮りますか?」と言われ…。
こんな写真を撮らせてもらったこともある。
これまでは、公園で、猫繋がりでしか話をしたことがなかったのだけれど、一応顔見知りなので、僕は、追い越すときに、「おはようございます」と声をかけた。
すると、その女性は、「あら」という表情で僕を見て、「おはようございますー」と返してくれるとともに、「最近、あの猫ちゃん見かけないでしょ?」と僕に問いかけてきた。
この流れだと、走り抜けてしまうわけにいかない。僕は、流石に立ち止まって、話をすることにした。
「そうですねぇ。」と僕は答えた。その女性も、きっと寂しがっているのだろうと思い、「でも、いずれまた現れてくれると思いますよ」と告げようとした。
が、その前に、衝撃的な一言が、その女性から発せられた。
「あの猫ちゃん、私が保護したから。」
…なんと。
飼い猫になってしまったのか。
ならば、もう、公園のテーブルなどで寝ていたりする筈はない。暖かい部屋でぐっすりと安らかに眠れるからだ。
僕は、あの猫にもう会えない衝撃に、一瞬愕然として、言葉を失ってしまったが、何とか気を取り直して、こう告げた。
「そうですか。良かった。」
精一杯の笑顔を作り、そして、再び走り出した。
何が良いものか。僕にとっては、ちっとも良くない。しかし、あの猫にとっては、いい飼い主のもとで過ごした方が、きっと幸せな生活を送れるだろう。
だからこそ、「良かった」という言葉が自然に出てきたのだと思う。
さよなら、夜明けランロードの猫。この1年半、出会えて本当によかった。
同じロードを走るたび、公園を通るたびに寂しくなってしまいそうなので、これからは少しランニングコースを変えようかと思っている。
1ヶ月前、秋ヶ瀬公園へのロングランに向かう途中で寄った時の猫。
あぁ、もう、こんな風に、あの猫を撫でることはできないんだなぁ…。