フランシス・マクドーマンドと言えば…。
3年前に見た「スリー・ビルボード」の演技が衝撃的。
怒りに満ちあふれた《動》の演技で、自身2度目のオスカーを受賞。
僕は、その圧倒的な強さに痺れたことを思い出す。
だから、そんな彼女が主演を務め、またまたオスカーの有力候補だと言う映画が来たとなれば、見逃すわけにはいかない。
ということで、公開早々に出かけた。
鑑賞後…。
僕は、フランシス・マクドーマンドのドキュメンタリーフィルムを見たような印象を抱いた。
全篇が怒りと《動》の演技で満ち溢れていた「スリー・ビルボード」とはうってかわって、《静》なる演技に終始。
しかし、そんな演技も、流石フランシス・マクドーマンド、と言えるものだった。
マクドーマンドが演じる「ノマドランド」の主人公は、60代の女性、ファーン。
夫を亡くし、職も家も失って、キャンピングカーによる生活を余儀なくされたノマド(遊牧民)だ。
物語が始まってすぐ、amazonの発送センターで働く勤務風景が出てきて驚いたが、この仕事は、マシな方だった。
amazonの仕事は短期雇用。
だからその後は、全米を移動し、仕事を転々と探しながら生きていくことになる。
60代の女性にとっては、あまりにも過酷な人生だ。
しかし、そんな老女を、フランシス・マクドーマンドは、力強く描ききっている。
排泄シーンも全裸も、何らためらうことなくさらけ出し、多くを語らず、ひたすら静かに、淡々と。
さまざまなノマドたちと交流しながら、雄大な大自然の中で繰り広げられる、出会い、別れ、そしてまた出会い、別れ…。
ともすれば退屈になりそうな展開なのだけれど、フランシス・マクドーマンドの、静かで濃厚な演技が救っている。
全篇の中で、ファーンが強烈な感情を表すのは、たった1シーンのみ。
しかし、その一瞬後には、また、静かな演技に戻っている。
あぁ、これが、ノマドとしての生き方なのか…と、僕は思った。
物語の中で、ファーンには、いくつもの選択肢が訪れる。
その際には、数多くの葛藤も生じた筈だ。
そんなときも、彼女は、多くを語らずに、結論を下す。
そんな誇り高き女性、ノマドのファーンを演じきった 、フランシス・マクドーマンド。
3度目のオスカーも、あり得るかもしれない。