豊島将之竜王は、持ち時間を30分残したまま、123手目を指さずに、そっと頭を下げた。
藤井聡太、新竜王の誕生だ。
もはや、とどまることを知らない藤井聡太伝説。
前竜王の豊島将之九段は、《序盤中盤終盤スキがない》と言われるほどの棋士で、渡辺明名人(棋王・王将)、永瀬拓矢王座と並ぶ、将棋界4強の1角だった。
そんな豊島九段を相手に、影も踏ませぬ4連勝で竜王位を奪取。
藤井聡太は、今年、豊島九段から叡王タイトルを奪い、王位挑戦も退けている。
いやはやなんとも、凄まじいほどの強さと言っていい。
藤井聡太は、今年の7月に行われた棋聖戦5番勝負において、渡辺名人に3連勝でストレート勝ちしている。その対戦成績は7勝1敗と圧倒。
永瀬王座に対しても、6勝1敗と断然の成績。
もはや、将棋界に4強は存在しない。藤井聡太1強時代の始まりだ。
勝利後のインタビューでも、藤井聡太は、いつも通り、言葉を絞り出すように、謙虚な発言を繰り返した。
史上最年少での四冠、そして棋界最高位の竜王に就いても、まだ、この天才棋士は、《その先》を見据えているのだ。
奇しくも昨日は、師匠である杉本昌隆八段の誕生日。
そんな日に竜王を奪取するというのは、あまりにドラマチックすぎる。
杉本八段にとっては、これ以上ないほど、最高の誕生日プレゼントだろう。
この本は、先月発売になったばかりだというのに、もはや内容が古くなってしまっている。
最年少「三冠王」から、最年少「四冠王」へ。
まだまだ藤井伝説は終わらない。
羽生善治九段が、将棋界の全タイトルを独占したのは、1996年。
25歳の若さで7冠を達成し、この記録は永遠に破られないのではないかと考えられてきた。
しかし、藤井聡太はまだ19歳。
現時点での無双ぶりを考えると、「史上最年少七冠」の達成も、ほぼ間違いないように思える。
現在、将棋界のタイトル戦は8つに増えているから、前人未踏の「八冠王」も視野に入ってきた。
将棋界において、今後永遠に語り継がれていく藤井聡太の軌跡。
そんな伝説の棋士を、リアルタイムに見ることができるのは、将棋ファンとして、本当に幸せだ。