将棋界には、現在8つの棋戦があるが、その中で最も伝統があるのは、名人戦。
棋戦の格付けでは(賞金額の関係で)竜王戦が最上位とされているけれど、実質的にはそれと同格に扱われている。
名人戦には、A級、B級1組、2組、C級1組、2組という5つのクラスが設定されている。
クラス毎に1年間戦って順位を競い、上のクラスに上がっていく(あるいは下がっていく)ことから、《順位戦》と呼ばれている。
基本的に、プロ入りした棋士は、全てC級2組からスタート*1となる。
将棋界では、ほぼ無敵と言っていい「あの」藤井聡太竜王(叡王・王位・棋聖)が、A級ではなくB級1組に在籍しているのは、毎年1階級づつしか昇級できないからだ。
そんな順位戦で、これまで29期連続(名人在位9期含む)でA級の座をキープしてきた羽生善治九段が、昨日は正念場を迎えていた。
前期の成績が悪かったため、A級8位になってしまった上に、今期もここまで2勝5敗。
昨日は、9位の永瀬王座との直接対決となっており、これに負けると、3月開催の最終戦を待たずに、B級1組へ降格決定という大一番となっていたのだ。
羽生九段は、永瀬王座との相性が実に悪く、これまで4勝11敗。難敵だ。
ここまで大きく羽生九段が負け越している相手は、藤井竜王以外だと、永瀬王座ぐらいではないか。
羽生九段ファンとしては、非常に心配だったのだけれど、ここ一番の大勝負では、底知れない強さを発揮してきた羽生先生だから、何とか踏みとどまってくれると信じていた。祈っていた。
だから、昨日は朝から仕事をしていても、羽生先生の状況ばかりが気になっていた。
休憩時間、ランチタイム、帰宅途中と、はらはらしながら将棋連盟モバイルアプリで、その棋譜をチェックし…。
帰宅後は、YouTubeで対局Liveが開始されていたため、固唾を吞みながらそれを見守っていた。
中盤以降は、永瀬王座優勢で進んでいたものの、その後、羽生九段にもチャンスが出てきたので、何とか逆転してくれないかと願い続けて見ていたが…。
22時22分。
羽生九段は、永瀬王座がこの局面から6九角と打ったのを見て、静かに頭を下げた。
無念の投了だ。
僕は、その姿を見たら、切なくてたまらなくなった。
来期、A級に昇級してくる(筈の)藤井竜王との、順位戦での直接対決が見たかったのになぁ…。
羽生九段は、対局後のインタビューで、来期の意向について「特にまだ考えていないので。次の一局に全力を尽くしたいと思います」と語っている。
B級1組に残って返り咲きを狙うのか、それとも、順位戦からの脱退(フリークラス宣言)をしてしまうのか。
米長邦雄先生や森内俊之先生は、A級からの陥落を機にフリークラス宣言をしてしまったから、その可能性もゼロではない。
ただ…。
他の棋戦での戦績を鑑みると、羽生先生は、まだまだ十分A級で戦える筈。
それなのに、フリークラス転身というのは、あまりに寂しい。
是非とも順位戦に残って、A級に返り咲いてくれると信じている。
*1:順位戦に参加できないフリークラスでプロ入りした棋士の場合も、順位戦に編入できた場合は、C級2組からの参加となる。