時は、先週末に遡る。
僕は、もっぱら夜明け前に走っているのだけれど、その日は、珍しく夕刻から走り始めた。
マイコースのひとつである都立城北中央公園を走った後、住宅街をさまよっていると、腹が…減った。
こうなったら、餃子を食べずにはいられない。町中華に行こう。そう決めた。
緊急事態宣言発令に伴い、孤独の餃ビーはできなくなってしまったが、餃子を食べるだけなら、何の問題もない、筈。
ということで、以前から気になっていた店に寄ってみることに決めた。
その店は、住宅街のど真ん中に、さりげなく、ぽつんと佇んでいた。
店の名は、「中華ふじ」
なんだか仮店舗のような風情なのだけれど、昭和から営業を続けているれっきとした町中華だ。
いざ、入店。
店内は、カウンターが数席と小さいテーブルが2つ。
先客が誰もいなかったこともあり、僕は、店の女将さんからテーブル席を案内された。
テーブルがぴかぴかで、とても清潔感のある店だなぁというのが第一印象。
僕はまず、餃子を注文することは決めていたのだけれど、餃子が焼き上がるまでに、何を食べようかちょっと迷った。
いつもならば、ニラ玉か野菜炒めを注文するところなのだけれど、ビールが飲めないのであれば、きっと持て余してしまう。
今回は素直に「餃子ライス」で済ませるか…と思ったが、ランで疲れていた身体は、炭酸の爽快さを求めていた。
ということで、僕は、気がつくとこう尋ねていた。
「ノンアルコールビール、ありますか?」
メニュー表には掲載されていなかったのだけれど、女将さんは、「一応あります。缶ですけど…」とすまなそうに言った。
僕は、雰囲気だけでも餃ビー気分を味わいたかったので、餃子とともにそれを注文。
そして…。
餃ビー気分になった以上、やっぱりご飯は合わないので、野菜炒めも注文することに決めた。
出てきたノンアルビールは、マラソン大会でお馴染みの(Expo会場やフィニッシュ会場でよく出てくる)アサヒドライゼロ。
女将さんは、それを僕のテーブルに持ってくる際、「値段書いてませんけど、300円になります。」と、これまたすまなそうに言った。
どうやら、僕がビールを注文できないことに恐縮しているようだ。
僕は、女将さんがすまなそうにされるのが、却って申し訳ないと思った。
ビールが注文できないのは、店の責任じゃない。店はむしろ被害者だからだ。
僕はノンアルビールを注文したのに、つまみの小皿を2種類もサービスしてくれたのは驚き。
これで300円なら、決して高くないと思った。
いやぁ、いい店だなぁと思いつつ、厨房を眺めてみると、女将さんが、僕のための餃子を1つ1つ包み始めていた。
作り置きではなく、注文ごとに包んでくれる餃子。いやぁ、最高じゃないか。
僕は、そんな姿を見ていたら、ほろ酔い気分になった。(ノンアルなので酔うはずないんだけどw)
気がつくと、旦那さんが奥から出てきていて、野菜炒めを作り始めていた。
そして、まず、それが登場。
野菜炒めというよりは、もやし炒めという感じで、見た目も地味だけれど、しっかり普通に美味しかった。
そして。
焼餃子がやってきた!
黄金色にこんがり焼けたそのフォルム。ついさっき、僕のために包まれたばかりの餃子は、実に端正で、美しい姿をしていた。
これはもう、絶対に間違いない餃子だ。
アサヒドライゼロとの競演。
説明を加えなければ、普通の餃ビーと、何ら区別がつかないだろう。
ノンアルコールビールは、やっぱりちょっと味気なくて、本当のビールとは似て非なるものだが、それでもやっぱり、餃子と一緒に映ると絵になる。
現状、東京には、不条理な禁酒令が下されているため、町中華において、「真の」餃ビーはできない状況。
しかし、疑似ビールでの餃ビーも、これはこれでありだと思った。
カリカリに焼けた薄皮の中には、肉と野菜が絶妙のバランスで包み込まれていた。
下味はあまりついていないので、普通に酢醤油が合う。
ニンニクもばっちり効いており、オーソドックスに美味しい。
この日は、疑似ビールでの餃ビーとなったが、ビールが解禁になったときには、是非また訪れよう。本当の餃ビーを、心から味わおう。
そんなことを感じさせてくれる店だった。再訪決定だ。