僕が誰よりも敬愛する作家、筒井康隆氏のサイン会に参加してきた。
会場は、三省堂書店の神田本店だ。
午後2時からの開始だったので、1時間前に着けば十分だろうと思っていたのだが、これが大甘だった。
いきなり、店舗の外、事務棟の階段沿いに、上の階まで大行列ができていて、すでに30人以上も並んでいるではないか。
前に「愛のひだりがわ」サイン会に出た時も、もの凄い大行列だったから、当然これは予測しておかなければいけなかった筈なのに。自分の読みの甘さに呆れる。
他ならぬ筒井さんのサイン会なのだから、これぐらい予測できなくてどうするのだ。実に情けない。
結果、この読みの甘さが、大きな後悔を残すことになった。
公式サイトでの告知によれば、サイン会が始まる前に筒井さんからの挨拶があり、この時だけは写真撮影も許可されるということだったのだが、サイン会が始まってもしばらくは、階段で足止めされていたので、僕には気づく由もなかった。
しかし、筒井康隆症候群の掲示板にて、挨拶があったとの情報を知り、愕然としてしまった。
サイン会が始まる直前に、いきなり階段の行列が詰まったことから推測すると、どうやら行列の先頭グループにいた10名前後だけが、会場まで案内され、それを享受することができたと思われる。悔しくて仕方がない。
生粋の筒井ファンを自認するなら、1番乗りを目指すぐらいの時間で行かなければいけなかったのに、1時間前などに着いているのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだけれど、やっぱり悔しい。
サイン会が本格的に始まっても、階段の行列から会場まで案内されるのは5人単位。
その時間の何とも長かったこと。結局、僕が会場に案内されたのは2時半頃。会場でも20人近くがまだ行列になっており、僕が筒井さんのサインをもらえたのは、なんと3時を20分も過ぎてのことだった。
それもそうだろう。
筒井さんは、皆が持ってきた著書1冊1冊に、毛筆で丁寧にサインを書いてくださるのだ。「壊れかた指南」1冊に対してだけでも素晴らしい記念なのに、合計5冊までサインをしてくださるのだから、本当に頭が下がる。
これだけの丁寧なファンサービスをしてくれる作家を、僕は他に知らない。この偉業を考えれば、数時間待つことぐらいは、当たり前だと言ってもいいだろう。
僕が持っていった本は、以下の5冊である。
「壊れかた指南」「虚人たち」「美藝公」「発作的作品群」「筒井康隆全集第1巻」
いざ、筒井さんに相対すると、緊張のあまり言葉が出なくなってしまった。
以前のサイン会同様、筒井さんが「いらっしゃい」と微笑む。とたんに緊張。
僕の本に、毛筆でサインをしていただいている間も、僕はずっと緊張している。しかしそれは心地良い緊張だ。何とも言い表せないほど、至福の時間だった。
5冊分のサインが終わり、筒井さんが「どうもありがとう」と、顔をあげ、微笑んでくださった。何も言葉を発することはできなかったけれど、僕にはそれで十分だった。