町中華での餃ビー巡りにおいて、少しだけ悩ましい問題がある。
ビールの「アテ」問題だ。
餃子という料理は、注文してから出てくるまでに、それなりに時間がかかる。
店によっては、注文を受けてから皮を包み始めたりするので、尚更。
そのため、餃子とビールを同時に注文すると、ビールが出てきた後、餃子が出てくるまでの間、タイムラグが発生する。
お新香やキムチなどのおつまみ系がメニューにあれば良いが、町中華の店では、それらのメニューがない場合も多い。
そんなとき、ビールと一緒に「アテ」を提供してくれるかどうかで、その店の印象は結構変わる。
町中華での「アテ」は、居酒屋のお通しと違って、料金を徴収されるわけではないので、あくまでサービス品。
だから、それが充実していると、なんだか得した気分になるのだ。
今月、忌まわしき禁酒令が施行される直前に訪れた「奥州軒」も、そんな店だった。
その店は、東武東上線の成増駅から、徒歩10分程度歩くと…。
住宅街の中に、ひっそりと存在していた。
いかにも老舗の町中華といった佇まいで、ワクワクする。
入店。
入口にはアルコールが常備。
テーブルごとにシールドが設けられており、昭和の町中華ながら、感染症対策はしっかりとられている。
そんな店で、1人餃ビーをするのに、いったい何の問題があるのだろう。
政府の《一律禁酒令》には、やっぱりどうしても僕は納得できないのだ。
ただ、この日はまだ禁酒令の発令前だったため、もちろんビールの注文は可能。
「餃子とビールをお願いします。」
僕は、注文をとりに来た女将さんにそう告げた。
すると、すぐにビールが登場。
漬物3品がセットになって、ビールの「アテ」として提供された。
信号機のような彩りもカラフルで、僕は嬉しくなってしまった。
ということで、僕は、気分良くしながら、主役の餃子が出てくるのを待った。
店内は、それほど客が入っていなかったが、出前の電話はひっきりなし。
僕は、「地元に愛されている店なんだなぁ…。」と思った。
5分、10分…。
店主は次々と出前注文の料理を作っているが、僕の餃子は出てこない。
まぁ、僕が入店する前から入っていた注文なのだろうと思い、僕は我慢した。
しかし…。
注文後20分が経過した上、僕より断然後に入店した客の麻婆丼が出てきて、耐えられなくなった。
麻婆丼と餃子では、料理過程が違うとはいえ、いくら何でも遅すぎる。
いったいどうなってるんだ?と思いながら、厨房の様子を眺め続けていると、店主が、僕を見てこう言った。
「何かお作りします?」
え?えっ。えっっ?
なんと、僕の注文した餃子は、女将さんに通っていなかったのだ。それじゃぁ、いくら待っても出てくる筈がない。
僕は、「餃子とビールを一緒に注文したんですけど…。」と言うと、店主も女将さんも慌て、謝罪を繰り返した。
特に女将さんは、自分が店主への連絡漏れをしたことに気がついて、本当に済まなそうだった。
僕は、一瞬腹をたてたものの、2人があまりに恐縮するので、「急いでお願いします」と言い、そのまま待つことにした。
まぁ、出前の注文殺到で忙しい状況だったのだから、うっかりミスは仕方ない。
僕も、気になるのなら、もう少し早く、自分から確認すればよかったのだ。
ただ、ビールのアテは食べきってしまったし、「餃子待ち」状態だったビールを持て余してしまうなぁ、と思っていたところ…。
「本当にごめんなさい」と言いながら、女将さんが、追加で2品のアテを提供してくれた。
これがなかなか美味しくて、僕は、ビールを追加注文したくなってしまったほど。
追加のアテを堪能しながら、しばらく待っていると…。
餃子が登場!
待望の餃ビーも実現した。
歯ごたえの良い野菜と、肉の旨みが調和しており、普通に美味しい餃子だった。
皮のしんなり感も、この餃子の味わいにはマッチしている。
僕は延々と待たされたことも忘れ、十分に満足した。
会計。
餃子とビールの注文で、1,070円の筈だったが、女将さんは、「1,000円で良いです」と言う。
僕は、「追加の料理もいただいてますし、(正しく1,070円を)受け取ってください。」と、定価通りの金額を渡そうとしたが、女将さんは固辞。
僕は、なんだか却って申し訳ない気持ちになってしまった。
こういった人情味のあるところが、地元に愛される店なのだろうなぁと思う。
僕は、「また是非伺います」と言って店を出た。
忌まわしき禁酒令が解除されたら、是非また訪れたい。