4月10日に、今年の「本屋大賞」が発表になった。
「本屋大賞」は、全国の書店員が《いちばん!売りたい》本を選ぶもので、今年で21回目。
出版界には、数多の文学賞があるけれど、その中でも、「本屋大賞」は別格。
受賞後は、伝統ある「芥川賞」や「直木賞」を超える売上を叩き出す本も珍しくない。
今年の受賞作は、まさにそんな作品。
そう。
「成瀬は天下を取りにいく」だ。
オビの裏には、錚々たる顔ぶれの推薦文が並ぶ。
昨年3月の発売以来、さまざまな賞も受賞してきている。
- 坪田譲治文学賞
- 「静岡書店大賞」小説部門 第1位
- ダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR 2023」小説部門第1位
- 「読書メーター OF THE TEAR 2023-2024」第1位
- 「中高生におすすめする司書のイチオシ本 2023年版」第1位
- 第17回「神奈川学校図書館員大賞(KO本大賞)」受賞
- 「キノベス!2024」第1位
だから、これまでもかなり話題になっていたのだけれど、ついに、「本屋大賞」まで受賞したことで人気が大爆発。
オリコンのランキングでも、4月2週以降、首位を爆走中*1だ。
書店員として《いちばん!売りたい》本が売れまくっているのは、まさに「本屋大賞」の面目躍如と言える。
僕は、この本の存在こそ知っていたものの、これまでは購入意欲が起きなかった。
なんとなくジュブナイル的な雰囲気を感じていたので、「こんなオッサンが読んでもなぁ…」と思っていたのだ。
しかし、僕と同世代の太田光(爆笑問題)さんが激賞していることで気になり始め、さらには「本屋大賞」まで受賞したとなれば、これは読まずにいられなくなった。
ということで…今更ながら購入して、あっという間に読み終えた。
その感想は、ただひとこと。
最高の読後感。
これに尽きる。
何と言っても、主人公《成瀬》のキャラクターが、ハンパなく素敵だ。
勉強もスポーツも歌も、何でもできるスーパーガールという設定は、ともすれば陳腐な物語になりやすい。
しかし成瀬は、凡百のスーパーガール(って変な表現かもしれないけど)とは一線を画している。
閉店を控える西武百貨店に毎日通って中継に映ろうとしたり(「ありがとう西武百貨店」)、M-1 を目指したり(「膳所から来ました」)、丸坊主にしたり(「線がつながる」)破天荒の極み。
「二百歳まで生きる」と自信満々に宣言していて、成瀬ならそれもあり得そうだと思わせるのが凄い。
何がいいと言って、最初の設定として、実在の西武デパートを舞台にしたのがいい。
徹頭徹尾、滋賀にこだわっているのがいい。
コロナ禍の中で生じた「あるある」の出来事や、実在のタレントたちも各所に出てくるため、臨場感がある。
登場人物たちや事象などは、虚実を織り交ぜて書かれているのだけれど、そのバランスも絶妙。
さらっと乾いた文体は実に読みやすいし、クスッと笑えるユーモアもある。
こんなに読後感のいい小説を読んだのは久しぶりだ。
作者の宮島未奈さんは、この本に収録されている「ありがとう西武大津店」がデビュー作。(2021年「女による女のためのR―18文学賞」受賞)
家事や育児の合間を縫って書き上げたというのだから、驚くばかり。
それからわずか3年にして、成瀬はさまざまなエピソードを積み重ね、この短編集を上梓。
そして、ついには《本屋大賞》まで受賞。
成瀬は、出版界の天下までとってしまったのだ。
いやぁ、凄い、凄すぎる。
続編も出ているようなので、これも買って読まなきゃなぁ…と思っている。
*1:先週は、瞬発力の高いタレント写真集に首位を奪われたが、1週でその座を奪回。