藤井聡太「八冠」は、なんともドラマチックな展開で誕生した。
王座戦5番勝負の第4局。
序盤は、永瀬王座の周到な研究術が炸裂し、藤井竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖を含む七冠)は、大いに苦しめられた。
王座戦の持ち時間は5時間で、チェスクロック方式*1なので、タイムマネジメントが非常に重要。
永瀬王座は、「事前研究済みの差し手についてはノータイムで指す」という方針で、藤井竜王・名人を追い込んだのだ。
藤井竜王・名人は、常に王道の将棋を指すため、事前研究の罠に嵌まりやすく、今回もそのトラップに引っかかってしまった。
40手目の時点では、藤井竜王・名人が2時間48分を消費していたというのに、永瀬王座の消費時間は、たったの5分!という凄まじさ。
AIによる評価値測定でも、永瀬王座が優勢となっており、流石に今回は、藤井竜王・名人をしても苦しいか…と思った。
しかし、それで終わらないのが、まさに藤井竜王・名人であり、7冠王としての底力。
永瀬王座の研究範囲を外れるや否や、候補手の広い指し手を続け、徐々に時間差も埋めていった。
不利な展開が続くものの、永瀬王座に最終的な決め手を与えずに粘って後半戦へ。
そしてついに、ほぼ互角の展開にまで戻したのだから、流石というしかない。
ただ、やはり序盤のタイムロスが厳しく、87手目の時点では、1分将棋*2に突入。
それに対し、永瀬王座は28分の考慮時間を残していたので、この差は決定的だった。
時間差を味方につけた永瀬王座は、次第に優勢を築く。
その後、王座自身も1分将棋に突入したものの、122手目の時点で、AIは「永瀬王座勝利」を示していた。
しかし…。
ここで永瀬王座は、痛恨のミスを犯し、奇跡の大逆転。
1分将棋は、これがあるから怖いとも言えるが、その条件は藤井竜王・名人も同じ。
「1分将棋の土俵」において、藤井竜王・名人の気力、底力が勝り、永瀬王座を追い込んだ故の勝利ではないかと思える。
その後、藤井竜王・名人は、淡々と永瀬玉を追い詰めていく。
最後は、綺麗な即詰みの展開に持ち込み、遂に…。
八冠達成!
となった。
いやぁ、もう、本当にドラマチックな展開で、ハラハラした。
藤井聡太にとっては、苦しみ抜いた挙げ句の勝利ではあったが、それだけに、歴史に残る1戦になったのではなかろうか。
書きたいことはいろいろあるけれど、今は、感動の余韻にしばらく浸っていたい。