嬉しくてたまらない。
久しく絶版になっていた、「あの」伝説の短編集が、《定本》として復刊されたからである。
そう。「バブリング創世記」だ。
旧版の文庫版(写真左)が発売されたのは1982年なので、なんと、37年ぶりの復刊。
僕は、そもそも、これほどの名著が、なぜ絶版になってしまったのか疑問だったのだけれど、完璧な形で復活してくれたのだから、文句は言うまい。
収録作品は、以下の全10作。
- バブリング創世記
- 死にかた
- 発明後のパターン
- 案内人
- 裏小倉
- 鍵
- 上下左右
- 廃塾令
- ヒノマル酒場
- 三人娘
短編集の巻頭に収録されている表題作は、衝撃的な書き出しで始まる。
ドンドンはドンドコの父なり。
ツツイスト*1ならば、冒頭の一文を見ただけで、懐かしさに震えるだろう。
これぞまさに、言語の魔術師・筒井康隆先生の真骨頂と言える作品で、37年経った今であっても、全く古びていないし、斬新。
もちろん、古びる筈がない。
この作品は、画期的な《聖書のパロディ》なのである。聖書の歴史を考えれば、37年などという月日は、ほんの一瞬に過ぎないからだ。
他ならぬ筒井康隆先生の作品である以上、単純なパロディにとどまる筈はなく、独自の世界を作り上げている。
ドンドンの子ドンドコ、ドンドコドンを生み、ドンドコドン、ドコドンドンとドンタカタを生めり…。
実にリズミカルなバブリング(ジャズのスキャット)が、この後も、延々と16ページ(!)にわたって続き、結末には感動が押し寄せてくる壮大な作品だ。
この短編集の魅力は、もちろん、表題作だけではない。
「小倉百人一首」のパロディあり、ホラーあり、シナリオあり、ショートショートありと、実に多彩。
とりわけ衝撃的な作品は、これ。
「上下左右」だ。
見開きが20マスに分割されており、その1マス1マスが、4階建てマンションの部屋という設定。
ページをめくる毎に、それぞれの部屋で同時進行に起きる事件が時系列で綴られていく。
各部屋での出来事は、それぞれ無関係なようでいて、そうではなく、最後には、あっと驚く結末が控えている。
筒井先生にしか思いつけない、そして書けない、斬新な作品だ。
この作品は、もともと、SFマガジン誌に掲載され、その後、「バブリング創世記」の単行本にも収録された。
しかし、特殊なスタイルゆえに、旧版の文庫版ではカットされてしまった、いわば幻の作品だった。
その後、SFマガジン700号記念のアンソロジー文庫には収録されたものの、筒井先生の文庫本としては初収録。
しかも、短編集「バブリング創世記」への復活という形だから、とりわけ嬉しい。
既に、旧版の文庫本を持っているというツツイストは多いと思うけれど、この「上下左右」を読むだけでも、新版を購入する価値があると思う。
今回の復刊が素晴らしい理由は、まだある。
なんと、筒井先生による自作解説がついているのだ!
ツツイストならば絶対に見逃せないポイントで、僕は、痺れながら読み耽ってしまった。
この他、「発明後のパターン」という短編では、《旧版》《最新版》がまとめて読める*2ようになっていて、これぞ定本!と言える本になっている。
筒井康隆先生の魅力がたっぷり詰まった驚愕の短編集が、満を持して、完璧な形で復刊。
僕はそれが、本当に嬉しくてたまらない。
「時をかける少女」や「旅のラゴス」などで、新たに筒井康隆先生のファンになった人には、是非ともオススメしたいし、旧版を持っているツツイストであっても、必携必読の一冊だ。