【前回までのあらすじ】
ロングランで豊洲市場にたどり着いたのは、一般開場時刻である午前5時の15分前。
市場飲食街への入口には、10人ぐらいしか並んでいなかったので、僕は、「やじ満」に一番乗りができるかもしれないと、胸を弾ませていた。
しかし、なんと僕は「やじ満」の所在地を勘違いしており、痛恨の5分ロス。いざ店の前に着いた時には、カウンター席はすでに満員になっていた。
その後、《飛び地》であるテーブル席に案内され、僕はようやくほっとした。
まずは、ビールとザーサイ漬けを注文。サッポロビールの赤星中瓶は、アフターランということもあり、五臓六腑に染み渡るうまさだった。
僕は大いに気分が良くなって、メインメニューを注文することにした。
テーブル席から、壁のメニューを見渡すと、ひときわ目立った料理があった。
しゅうまいだ。
この店のメニューは、料理それぞれに、ちょっとした紹介文がついているのが特徴なのだけれど、焼売だけ、それが断然詳しいのである。
名物手作りジャンボ焼売(シューマイ)
豚肉と玉ネギのみ素朴な幸せの味です。是非一度お召し上がりください。
河岸の人々に愛され70年の味。お土産にどうぞ。
僕は餃子ランナーだから、餃子と焼売の二択ならば、もちろん餃子を選ぶ。
そもそも、この店を訪れたのも、去年の年末からメニューに加わったという、餃子を食べるためだった。
しかし、ここまで強力にプッシュされると、焼売も気になってくる。
この店の焼売推しはこれだけじゃない。
なにしろ…。
餃子には紹介文がついておらず、その代わり《名物はしゅうまい》という但し書きが添えられているのだ。
要は、「餃子を注文するぐらいなら、名物の焼売を食べてくださいよ!」ということだろうw
僕は、もちろん餃子を注文するつもりだったが、これを見て一瞬ひるんでしまったほど。
ということで、店員さんにテーブル席から声をかけて、恐る恐る聞いてみた。
「すみません…餃子、ありますか?」
すると、店員さんからは、「ありますよ。」と、すんなり回答が帰ってきた。
僕は、「今日はありません。焼売にしますか。」などと言われるパターンをイメージしていたので、とりあえずホッとして、餃子を頼んだ。
そして…。
折角なので、焼売も食べてみることにした。
1個単位で注文できるとのことだが、2個で360円の手頃な価格なので、2個注文。
その後、料理ができるのを待っていると、カウンター席が空いたとのことで、僕は、飛び地のテーブル席から、カウンター席に移った。
厨房が正面から見える、特等席だ。
店の奥には、さまざまな料理の名前が、ずらっと並んでいて、壮観。
たった10人程度しか入れない店なのに、このメニュー構成は凄すぎる。
流石、創業70年の伝統はダテじゃない。僕は、どれもこれも食べたくなってしまった。
…と、そんなことを思いながら、メニューを眺めていると…。
焼売が出てきた!
大ぶりなサイズのものが、小皿に盛り付けられており、キャベツと辛子まで添えられていた。
運ばれてきた際、店員さんから、食べ方のレクチャーがあった。
「ソースがオススメですけど、何もつけなくても、十分美味しいです。醤油などもありますので、お好みで…。」
とのことだった。
まずは、何もつけずに囓ってみる。
うわっ。旨いぞ!
蒸したてということもあり、とても柔らかく、口の中でとろける感触がたまらない。
豚肉と玉ねぎだけのシンプルな具なのに、その味は濃厚で、余韻が後を引く。
オススメのソースをつけて食べてみると…。
絶品!
ソースの甘みが、焼売のほんのりした甘みを引き立て、絶妙のバランスを醸し出している。いやぁ、これは本当に素晴らしい。
流石は、河岸の人々に愛され70年の味という焼売だ。
僕は、あんまり気に入ったので、その後、もう1つ追加してしまった。
たった1個の注文でも、キャベツが添えられてくる。
この店にとって、焼売が別格の存在であるという証拠だ。
その後、餃子も登場。
派手な焼売の後だと、なんだかちょっと寂しげに見えるのは、気のせいだろうか。
焼売にはお供にキャベツがついていたが、餃子には何もなし。
ということで、僕は、餃子に助け船を出してあげることにした。
餃子にとって、最強のお供。ビールを追加注文したのだ。
うん。やっぱりこの組み合わせは素晴らしい。
餃子は、普通に美味しかった。
手包みの皮はもちもちだし、じわっと肉汁も感じる。肉と野菜のバランスも悪くない。
ただ…。やっぱり、「あの」焼売を食べた後だと、力不足を感じてしまう。
それはそうだろう。
70年の伝統を誇る自慢料理の焼売に比べ、餃子は、去年メニューに加わったばかりの新人。勝負になる筈がない。
しかし、日々進化していく「やじ満」のことだ。
今後、餃子もきっと、パワーアップしていくと信じたい。