多くの言葉はいらない。
今、この短篇集を読むことができる幸せを噛みしめていたい。
筒井康隆先生と、同じ時代を生きることができて、本当に良かった。
心からそう思える短篇集だ。
筒井先生の短篇集は、「世界はゴ冗談」以来、6年ぶりの刊行となる。
今回収録されている14篇は、どれもこれも(もちろん)傑作ばかりだけれど、とりわけ、2020年に発表された作品群のインパクトが強烈。
新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、全ての日常を塗り替えてしまった年。
そして、筒井康隆先生が、最愛のご子息(筒井伸輔画伯)を病気で失ってしまった年。
そんな年に発表された作品たちは、現実世界や、筒井先生の私小説的な彩りとオーバーラップして、胸を打つ。
巻末に収録されている「川のほとり」は、筒井伸輔画伯にまつわる小説であり、涙なくしては読めない。
昨年11月に開催されたトークイベントで、筒井先生は、この小説の発表に先駆けて、朗読をしてくださった。
僕は、「川のほとり」を読みながら、あの時に聞いた筒井先生の声を思い出していた。
僕は今後も、「川のほとり」を読み直すたび、それを思い出すだろう。
この短篇集の装画は、そんな筒井伸輔画伯のクレジットとなっており、表紙、背表紙、裏表紙、扉絵に至るまで、画伯の絵が登場する。
いわば、筒井康隆先生と、愛息伸輔画伯との共同作品なのだ。
そう考えると、僕はまた胸が熱くなった。
【補足】
収録作品の内容については、スポーツ報知のWebサイトに掲載された、筒井康隆先生の単独インタビュー(全3回)で、詳しく紹介されている。
ツツイストはもちろん、この本のことが気になる全ての人にとって、必読のインタビューだと思う。