いやぁ、時代は変わったものだなぁ…と思った。
SFファンなら誰でも知っている、星雲賞。その、今年の受賞結果を見て、僕は本当に驚いてしまった。
受賞作は以下の通り。
- 【日本長編部門(小説)】『ウルトラマンF』 小林泰三
- 【日本短編部門(小説)】「最後にして最初のアイドル」草野原々
- 【海外長編部門(小説)】『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 』ピーター・トライアス
- 【海外短編部門(小説)】「もどれ、過去へもどれ」*1ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
「シミュラクラ」ケン・リュウ*2 - 【メディア部門】『シン・ゴジラ』
- 【コミック部門】『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
- 【アート部門】加藤直之
- 【ノンフィクション部門】『SFのSは、ステキのS』池澤春菜
- 【自由部門】『“ニホニウム”正式名称決定』。
小林泰三やジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、ケン・リュウと言った、星雲賞でおなじみのメンバーに混じって、草野原々の名前があったからだ。
日本短編部門を受賞したその作品、「最後にして最初のアイドル」は、昨年のハヤカワSFコンテスト入賞作にして、デビュー作。
その内容があまりにも特異だったため、審査員の選評でも、意見が大いに分かれ、結果、《特別賞》という形に落ち着いた作品だ。
優秀賞を受賞した『ヒュレーの海』 と、『世界の終わりの壁際で』は、ハヤカワ文庫として刊行されたが、「最後にして最初のアイドル」は(中編作品ということもあったかもしれないけれど)電子書籍版のみでの刊行ということになり*3、ちょっと格差を感じた。
しかし、今回、一気に立場が逆転。
いや、もともと、格差などはなかったのかもしれない。
作者の草野原々氏が、特別賞受賞当時に受けたインタビューには、この作品に関する自信がみなぎっている。
そればかりか…。
年収百万円を達成するために、わたしは来年の星雲賞を手に入れることを決意するのであった。そして、この文章を読んだものは、「最後にして最初のアイドル」に投票することになるのだった。
なんと、今回の星雲賞受賞を予言している!
このインタビューは、最初から最後まで実に刺激的で、僕は、初めてこれを読んだ時、大いに驚いたことを思い出す。
正直に書くと、僕は、最近のアニメやアイドルという分野に非常に疎く、興味もないため、だから、このインタビューで言及されている『ラブライブ!』についても、全く知らなかった。
『最後にして最初のアイドル』は、その原案が『ラブライブ!』の二次創作ということで、アニメ色が満載なのだろうと勝手に解釈し、僕は、結局、この小説を読まずに過ごしていた。
電子書籍版は、ワンクリックですぐに買えたのだけれど、アニメが苦手な僕としては、「無理して読むこともないかなぁ…。」と思っていたのだ。
しかし、星雲賞まで受賞したとなれば、話は別。
しかも、デビュー作での星雲賞受賞は、あの、山田正紀「神狩り」以来42年ぶりの快挙。
「神狩り」は、SF史上に残る大傑作で、その後の山田正紀の活躍ぶりは、SFファンなら誰でも知っている。
となれば、僕も一応SFファンの端くれとして、読まずに済ませるわけにはいかない。
ということで、昨晩購入。
「最後にして最初のアイドル」
130円。安い。
こんな値段だったのだから、もっと早く買っておけば…とも思ったが、ただ、そんなに焦る必要もない。
いざ読もうと思ったら、すぐに読めるのが電子書籍の凄いところ。
ということで…。
とりあえずは、iPad AirのKindleアプリに入れてパラパラと眺めてみた。
Kindle FireもPaperwhiteも持っているが、とりあえずは、常時携帯しているiPad Airで読むのが楽だと思ったからだ。
で…。
一読してみて、本当に驚いた。
前述させていただいたように、僕はアニメ系やアイドル系の描写が苦手なので、最初はちょっときつかった。
しかし、主人公であり、アイドルを目指していた少女が自殺し、あっと驚く形で復活するところからが、この物語の真骨頂。
そして、紛れもなく、これはSF。超をいくらつけても足りないぐらいの(もちろん褒め言葉として)バカSFだった。
いやはや、なんというパワーの溢れる作品だろう。これは。
文章は、かなり荒削りのように思えるし、あまりにも突拍子もない展開についていけず、時々苦労するところもあったが、それでもやっぱり読まされてしまった。
こんな素敵な読書体験を、思い立ったら一瞬に、それも、たった130円で味わうことができるのだから、いやはや、本当に時代は変わったものだなぁと思う。
小説の内容とは別に、僕は、なんだか未来を感じてしまった。
『エヴォリューションがーるず』
星雲賞受賞第一作であり、著者2作目の作品となる『エヴォリューションがーるず』が、現在、amazonで予約受付中となっている。
…ので、もちろん予約した。
7月31日発売。
と言っても、「紙」ではないから、書店などに並ぶわけではなく、当日になると、Kindleに自動配信されるようだ。
今度は、ソーシャルゲームがテーマ。
いったいそれがどのような形でバカSF化(?)されるのだろう…。
とても気になる。