これはまさに、宝箱のような短編集だ。
「全篇初収録+書き下ろし!」の珠玉作品が、なんと十九篇も収録されている。
いやぁ、嬉しくて嬉しくてたまらない。
編集を手がけていただいた日下三蔵先生、そして、発行してくださった竹書房に、深く、深く感謝。
僕は、その感動を伝えずにいられないし、売れてもらわなければ困るので、微力ながら、全力でその素晴らしさを訴えたい。
「売れてもらわなければ困る」理由は、ただひとつ。
この本が売れないと、現状未刊行及び入手困難になっている短篇たちが、世に出るきっかけを失ってしまうかもしれないからだ。
草上仁先生は、日本SF界屈指の、稀代の短篇名手であり、1990年代には、十数冊もの短編集が発売されていた。
しかし…出版界に短編集不遇の時代が到来。
その煽りを食ったため、草上先生の作品も軒並み絶版扱いになってしまい、僕は大きく落ち込んでいた。
昨年。
ハヤカワ文庫から、超久しぶりの短編集「5分間SF」が発売された。
《1話5分で楽しめるSFショートショート》作品集というコンセプトが当たり、この本は売れに売れた。
これで初めて、草上先生の面白さを知った人も多いだろう。
僕はその時、旧作品の復刊を強く訴えた。
「5分間SF」は、確かに良質のショートショート集ではあるけれど、草上先生の魅力は、それだけじゃない。
もっと長めの作品に、いくらでも名作群が眠っている、だから、絶版の作品群を復刊して欲しい!と、僕は願ったのだ。
しかし、その願いは叶わず、代わりに、「5分間SF」の流れを汲む《新刊》が発売された。
その名も、「7分間SF」。
出版社のキャッチコピー曰く…。
「5分間SF」の次はコレ。面白さ「+2分間」増量!
とのことだった。
新刊が出てくれるのは嬉しいけれど、その長さにばかりフォーカスされるのはなぁ…という気がしないでもなかった。
草上先生は、決して、「5分間」や「7分間」で読めることにこだわって作品を書いてきたわけではない筈だからだ。
僕は、再び「絶版SF短編集群」の復刊を訴えた。
草上仁先生のホームグラウンドは、早川書房の《SFマガジン》で、これまでの短編集は全てハヤカワ文庫から発売。
「SFマガジン」誌では、個人特集が組まれた号まであるほど、早川書房との結びつきは深い。
だから、早川書房には、草上先生の未刊行短篇が、まだ100篇以上眠っている筈だ。
僕は、絶版短編集の復刊とともに、そういった作品たちの刊行(できれば「○○分SF」ではない形での)を望んでいた。
その願いは未だ叶っていないのだけれど、意外にも(?)竹書房から、短編集の新刊が出ると聞いて、大いに驚いた。
僕はその情報を知るなり、秒速で予約。昨日、それを入手した。
そして、その内容が想像以上に素晴らしかったことに、感動している。
収録作品は、今は亡き「SFアドベンチャー」誌と、旧「野性時代」誌に掲載されたもの。
もう20年以上前の作品たちになるが、その面白さは、未だにその輝きを失っていない。
そしてさらに、なんと、書き下ろし作品まで収録されているのだ。
いやはや本当に素晴らしい。
編者の日下三蔵氏は、草上仁先生の作品をこう評している。
フレドリック・ブラウンに、もっとも近い。(中略)日本でいうなら、まさに星新一。あるいは、藤子・F・不二雄や岡崎二郎を想起していただければ、草上作品のレベルの高さをイメージしやすいのではなかろうか。
まさにその通り。
実にクオリティの高い、良質の短篇群なのだ。
日下氏の解説によれば、草上短篇作品は、単行本未収録のものが、まだ、180篇(!)も残っているらしい。
これは、僕の想定を超えていたので、大きく驚いた。
旧作品の復刊はもちろんのこと、こういった、眠っている名作群が日の目を見るには、何より、今回の短編集が売れるか否かにかかっている。
その内容については申し分ないのだけれど、それが売れるかどうかについては、マーケティング面など、別の要素も必要になってくる。
今回の極上短篇集は、そのタイトルも表紙も、一見地味なので、僕は少しだけ不安だ。
杞憂に終わってくれることを願うし、是非とも、復刊・新刊が出てくれることを祈りたい。