将棋好きなら、絶対に見逃せない1冊が出た。
その名は、「読む将棋 2021」。
サブタイトルとして、《棋士が語る藤井聡太と羽生世代》とつけられている。
発行元は文藝春秋で、スポーツ誌「Number」と同じ。
そう。
これは、昨年秋に発売されて爆発的に売れた、「Number」将棋特集号の流れを汲む本だろう。
ただ、誌面構成やコンセプトについては、異なる点もある。
「Number」誌においては、今年1月に再び将棋特集が組まれている(藤井聡太と将棋の冒険)が、どちらも、ほぼリアルタイムの取材記事が並んでいた。
旬の情報を切り取って発信する《雑誌》というメディアの性格上、それは自然な流れと言える。
しかし、この本はちょっと違う。
インタビューを中心に構成されているという点では、「Number」誌と共通するものの、記事の編集過程は、全く別の形をとっている。
《文春ムック》という体裁になっているため、雑誌のように、発売期間が決まっているものではなく、長期間にわたって販売されることを踏まえた内容になっているのだ。
出版社による商品紹介では、以下のように紹介されている。
文春オンラインの特集「観る将棋、読む将棋」に掲載された中から厳選した記事に加えて、新たに書き下ろされた読み物や人気棋士のインタビュー、コラム、コミックをひとつの冊子にまとめました。全144ページ。
文春オンラインでの特集記事を再編成したような体裁になっており、2019年のインタビューなどが多数掲載。
だから《今》の情報だと思って読むと、「あれっ?」と思う箇所もある。
でも、それは些細なこと。
読み進むうちに、将棋の歴史や奥深さを感じさせるようになってくる。
素晴らしいのは、その編集構成。
第一章《藤井聡太と若き才能》では、またたく間に棋界のスーパースターに上り詰めた藤井二冠の凄さを、さまざまな棋士たちが、直接・間接的に語っている。
それぞれの棋士たちには、かなり突っ込んだ形でインタビューが行われているため、もちろん、その内容は藤井二冠のことだけにとどまらない。
自らの将棋観についても、存分に語られており、実に読み応えがある。
第二章《羽生世代と見果てぬ夢》がこれまたいい。
こちらは、羽生世代と呼ばれる、五十代近辺の棋士たちを中心としたインタビューで構成されており、熟成された味わいがある。
巻末は、僕が最も好きな棋士、山崎八段の最新インタビューで締めくくられている。
山崎八段は、まだ四十歳なので、《羽生世代》と呼ぶには若すぎる気がするのだけれど、若手の台頭著しい将棋界においては、ベテランの領域になってしまう。
山崎八段の将棋は、棋界でもっとも独創的と言われており、【魅せる将棋】と言える。
そんな将棋スタイルもさることながら、自虐的なトークの面白さにも定評がある。
それは、例えばこういった羽生先生とのやりとりなどで有名だ。
今回のインタビューでは、そんな山崎八段の魅力が、存分に感じられるものとなっており、山崎ファンならば、これだけでも購入の価値があると思う。
と…。
単なる山崎八段推しの紹介になってしまったが、もちろん、どの棋士のインタビューも実に読み応えがあり、これがまとめて読める価値は高い。
将棋ファンならば、やっぱり、絶対に見逃せない一冊だ。