足柄峠走のベースステーションとなる、御殿場線山北駅から、徒歩30秒。
駅舎の真横とも言える場所に、その店、「しみず」はあった。
先月、足柄峠を走ったラン仲間が、facebookにこの店のことをアップしており、感激していたことを思い出したので、僕も訪れることにしたのだ。
僕は、友人の訪問レポートを読むまで、恥ずかしながら、この店の存在に気がついていなかった。
もう、足かけ7年も山北駅に通い続けているというのに、駅のすぐそばにあった店を見逃していたのである。痛恨。
僕は、撃沈した峠走で心身ともに疲れていたし、すぐにでも休みたかった。
5分後の電車を見送れば、その次が来るまでは1時間近くあるので、時間は十分。
ということで…この店へ入ることに決めた。
入口には、バラエティに富んだメニューが書かれていた。
これだけだと少し迷ったかもしれないが、友人の声などから、餃子があることは予習済だったので、安心して(?)入店。
店内は広々としており、昭和の香りが漂う、落ち着いた空間。
先客には、登山にきたらしい年配の4人組がいて、楽しそうに食事をしていた。
僕は、店内に掲げられていたメニューを見渡し、まずはビールと…。
もちろん、餃子を注文することにした。
オーダーを取りに来た店員は、非常にはきはきした、声の通る女性。
僕の注文に、「はい。わかりました!」と、明るく応えてくれた時から、感じがいいなぁと思ったのだけれど、その第一印象は、間違いではなかった。
「峠を走っていらっしゃったんですか。」「お疲れさまでした」などと、僕に優しく声をかけてくれ、それだけでも嬉しかったが、さらに、こんなエピソードも加わる。
先客だった4人組が食事を終え、店を出る際のこと。
初めてこの店を訪れたような客らしい客たちに、「登山、楽しんでくださいね。」「お気をつけてくださいね。」などと声をかけ、「どうもありがとうございました!」と大きく頭を下げた後、入口のドアを引いて開け、送り出した。
いやはや、なかなかできることじゃない。僕は、非常に好感を持った。
そんな情景を見ながら、しばし、居心地の良さに浸っていると、「お待たせしました!」という明るい声とともに…。
ビールが来た!
峠走後、そして温泉後のビール。美味しいに決まっている。
そして…。
焼餃子が来た!
小ぶりな餃子だけれど、値段(350円)を考えれば悪くない。焼き色もこんがり綺麗で、魅惑的だ。
実食。
皮がさくさくで、ニンニクのガッツリ効いた野菜系餃子。下味はあまりついていない感じなので、酢醤油でオーソドックスに食べる。
めちゃめちゃ美味しいってわけではないけれど、僕好みの味だったし、峠走で疲れた身体に効く餃子だと思った。
僕は、しばし餃ビーに酔いしれながら、この後はどうしようか…?と少し考えた。国府津の餃子ショップへ行って、餃子ハシゴもいいかなぁ…などと思ったのだ。
しかし、次の電車が来るまで、まだ時間がたっぷりあったし、とにかく居心地のいい店だったので、餃子だけ食べて帰るのはちょっと勿体ない気がした。
ということで、いつもの餃子とビールに加えて、もう1品食べてみようと思った。
食べログなどでの口コミを見ると、皆がこぞって「カツ丼」推し。その日も、先客の4人組や、その後に入ってきた客たちが、皆、カツ丼を注文していたので、とても気になった。
しかし、餃子とビールのあと、カツ丼を食べるのはちょっと重たいし、この時点では、国府津での餃子転戦も頭によぎったので、少し余裕を残しておきたかった。
ということで、今回は、カツ丼の次に口コミの評判が良かったラーメンを注文することに。
厨房の中にいた店員の女性を呼ぶと、「はい。ありがとうございます」という明るい声とともに現れ、僕のオーダーを受けつけてくれた。
ラーメン登場。
非常にシンプルなビジュアルで、素朴な醤油ラーメンという趣だったが、いやはやどうして、これが侮れなかった。
なんと言ってもスープが旨い!ちょっぴり甘くて、実に味わい深かった。峠走後の疲れた胃にはぴったりで、実に癒やされる味。
麺の口当たりも良いし、厚切りのチャーシューも美味しい。
僕は普段、あまりラーメンを食べないので、有名店などとの比較はできないけれど、個人的には大いに満足した。
ラーメンを食べ終え、しばし、その余韻に浸っていると、店員の女性が、僕に次のように声をかけた。
「まだ時間はございますか?アイスコーヒーをお飲みになりますか?」
僕が、ちょっと驚いて、「は、はい。」と答えると、すぐに厨房へ向かい…。
これが出てきた。
「お代は…?」と尋ねると、「いえ、サービスなんです。」と笑顔でひとこと。
そういえば、他の客たちも、皆アイスコーヒーを飲んでいたような気がした。これは、サービスだったのか。
メニューにも、店内にも、どこにも書いていない心づくし。僕はまたしても嬉しい気分に浸った。
気がついたら、あっという間に1時間が経過しようとしていた。次の電車の時間が迫っている。
これを逃すと、また1時間待たなければならなくなるので、僕は、店を出ることにした。
店員の女性に、会計したい旨声をかけると、明るく響く声で「かしこまりました。ありがとうございます」と応えてくれた。
僕が帰る際にも、僕ひとりのために何度も頭を下げてくれ、さらに、やっぱりドアを引いて送り出してくれた。
この女性だけじゃなく、厨房の奥で料理をしていた女性も、「ありがとうございます」という声とともに、頭を下げてくださっているのがわかった。
いやはや、なんと感じのいい店だろう。
僕は、峠走で沈んだ思いと疲れた身体が、大いに癒えるのを感じながら帰路についた。
そして、今度峠走に行く際も、絶対に寄ろう、そして、今度は絶対にカツ丼を食べよう!と心に誓った。