いやぁ、面白かった。面白かったなぁ。
屍人荘の殺人
新年早々、極上の、最高のミステリに出会えて、僕はとても幸せだ。
この作品については、デビュー作にして「このミス」で1位を獲得していた時から、ずっと気になっていた。
その後、文春のミステリーベスト10、原書房の本格ミステリベスト10で1位を獲得して3冠を達成。
この3冠がいかに凄いかについては、昨日のエントリーで詳しく書かせていただいた通り。
ミステリ3冠は、この「屍人荘の殺人」以前は、2作家3作品しか受賞していない。
そして、その2作家というのは…東野圭吾と米澤穂信という、超人気者たちなのである。
デビュー作にして、この2人しか達成していない快挙を成し遂げたのだから、いかに凄い作品であるかということがおわかりいただけると思う。
ただ、その快挙がなければ、僕がこの本を購入していたかどうかは、少し怪しくなってくる。
なんと言っても、タイトルが、ちょっと微妙。
鮎川哲也賞の選評(巻末に掲載)で、北村薫がいみじくも述べている通り、「○○○の殺人」というタイトルは、先行作がいくらでもあり、ちょっともったいない気がするのだ。
さらに「○○荘の殺人」となると、ミステリファンの間で絶大な人気を誇る、綾辻行人の「○○館の殺人」シリーズと比べられる可能性が高く、それは、どう考えても損だという気がした。
しかし、この本は、そんなタイトルの平凡さ*1を補ってあまりあるパワーを秘めていた。
裏表紙のオビ部分では、当代の人気作家たちが、挙ってこの作品を激賞。
その中に、前述「○○館の殺人」シリーズを擁する綾辻行人の名前があることも、この本に箔をつけていると思う。
ただ…。この本の面白さを、ネタバレさせずに伝えるのはとても難しい。
山荘を舞台にしたクローズド・サークル*2 もの…ということは、タイトルからも想像できる。
ただ、この作品においては、その、「クローズド・サークル化させる方法」が、前代未聞。
まさかこんな方法があったなんて!と思うような衝撃だ。
しかも、その奇抜な設定が、しっかりとトリックに関わってくるという凄さ。
どう考えても「あり得ないだろ」と思うような状況なのだけれど、後半の謎解き部分では、それが鮮やかに解き明かされていく。
大仕掛けで《魅せる》作品でありながら、実は、しっかりとした裏付けに基づいて構築されていることに感嘆した。
伏線の張り方も、実に巧妙で、見事だ。
この作品の凄さは、それだけじゃない。登場人物たちの扱いも破格。
巻頭に掲載されている登場人物は結構多く、僕は、最初、ちょっと読みにくそうだなぁ…と感じた。
もともと僕は、登場人物の多い作品が好きではなく、最近は、歳のせいか覚えられなくもなってきているので、「このページとの行ったり来たりをしながら読み進めるのは面倒だなぁ」と思いながら、読み始めた。
しかし。
この点においても問題なかった。
途中から明らかにされる作者の「工夫」が見事で、僕は、殆ど混乱せずに読み進めることができたのだ。
しかも、登場人物は、あれよあれよという間に減っていく。
その課程で「えっ、えーっ!」と思うようなこともあり、僕は、この先いったいどうなるんだろう…?と思いながら読み進めたことを思い出す。
さらに、この本には大いなる魅力がある。
クローズド・サークルが発生している状況、そしてその中で起きている殺人というストーリーを考えると、相当に《陰惨》な状況なのだけれど、不思議と重たい気分にならないのだ。
スピード感のある文体と、上質のユーモア精神。それが織り込まれているため、陰惨な状況を感じさせず、ぐいぐいと読み進むことができる。実にリーダビリティの高い小説なのだ、これは。
僕はグロテスクなものは苦手なので、映像で見ていたら「ちょっと…」と身構えていたかもしれない。
しかし、この小説では、リーダビリティの高さゆえ、そんなことを感じさせる間もなく、あれよあれよという間に読了してしまった。
あまりの面白さに、エアロバイクを漕いでいる間もやめられず(テレビを見ているより面白い!)読み進めてしまったほど。
ミステリ好き、密室もの好き、青春小説好き、そして、「面白い小説が読みたい人」には、とにかくオススメ。
一気読み必至の大傑作だ。