古き良き、昭和の記憶が甦る。
トキワ荘マンガミュージアムは、まさにそんな夢空間だった。
僕は、心地良い余韻に浸りながら、次の目的地に向かった。
トキワ荘ミュージアムの近辺には、ゆかりの地がたくさんあるが、僕が目指していたのは…。
この店。中華料理「松葉」だ。
かつて、トキワ荘に住んでいた漫画家たちが愛した店。
藤子不二雄先生の作品に登場する《ラーメン大好き小池さん》が、かじりついていたラーメンは、この店のものがモデルになっている。
だから僕は、トキワ荘帰りには、この店に絶対立ち寄って、餃ビーすると決めていたのだ。
この店は、トキワ荘マンガミュージアムから数分もかからない場所にある。
僕は、ミュージアムの余韻が残っているうちに、餃ビーで気分を高めようと、店に急いだ。
時刻はまだ5時過ぎ。
夕食時間にはまだ早いから、ピークの前で空いている筈、と思ったのだけれど…。
店の入口では、女性の方が掃除をしてい`た。
暖簾はかかっているものの、何だかちょっと様子が変だ。僕は、思わず近寄って聞いてみる。
「今、入れますでしょうか?」
すると…
その女性はこう答えた。
「すみません。本日は、もう売り切れました。」
え、え、え?
僕は耳を疑った。
これから、夕方の《かき入れ時》だというのに、もう、売り切れ?そんなことがあり得るのか??
しかし、それは事実だった。
掃除をしていた女性は、おかみさんだったらしく、戸惑っていた僕に詳しい状況を教えてくださった。
「ミュージアムがオープンしてから、お客さんが凄くて…。」とのこと。
これは、あとで知った情報なのだけれど、僕が訪れた7月19日は、日曜日ということもあり、特に忙しかったようだ。
この記事によると、同日、午後1時には20人超の行列となっており、午後2時過ぎには、店の扉に、売り切れを示す貼り紙が掲示されていたとのこと。
そう。
確かに貼り紙はあった。
僕は、おかみさんと話をさせていただいたあと、それを確認している。
完売のお知らせは、藤子不二雄A先生の漫画の横に、しっかりと掲示されていた。
それを見ながら、僕は自分の甘さを悔やんだ。
ミュージアムは、まだ開館したばかりであり、初めてこの地を訪れる人も多い筈。
そんな人たちが、食事をする場合、やっぱり、(僕と同様)漫画家たちのゆかりの店へ行きたくなるに決まっている。
だから、この「松葉」が行列になるのは必然だし、料理が完売するのも必定と言える。
そんなことにも気がつかない僕は、あまりに甘かった。甘すぎた。自分のバカさ加減が、どうにもこうにも恨めしい。
そして僕は、頂点まで高まっていた《餃ビー気分》を、いったいどうやって納めればよいか、悩ましくなった。
ということで、とりあえず、この街を彷徨ってみることにした。