小田急線下北沢駅から徒歩約10分。
華やかな駅前商店街を抜けて、ちょっと寂しくなった道の角に、その店は現れる。
店の名は、「中華 丸長」。昭和30年創業の町中華店だ。
《丸長》というと、ラーメン通の間では、つけ麺の店ということになっているようで、その元締となる荻窪店の他、いくつかの店舗がある。
この店も、そんな《丸長》グループの一員ではあるのだけれど、つけ麺推しではない。
ここ下北沢店は、つけ麺店というよりも、老舗の町中華店として根付いているようだ。
店内はなかなか広く、カウンター席、テーブル席あわせて24席ある。
この日僕が訪れたのは、中途半端な時間帯だったせいか、空いており、先客は1名だけ。
ソーシャルディスタンスを気にする必要もなかった。
メニューを見ても、つけ麺はそれほどプッシュされていない。
雲呑類が6種類もあり、むしろ雲呑推し?の店であるようにも思える。
僕は、そんな雲呑も気になったものの、餃子とジャンルがかぶるので(別にかぶっても問題無いんだけどw)、ニラ炒めを注文した。
でも、まずは、とりあえず…。
ビールだ。
いやぁ、町中華で呑むビールって、どうしてこんなに美味しいんだろう。どうしてこんなに幸せな気分になれるのだろう。
僕は、ビールと一緒についてきたお新香をつまみながら、店内を眺めてみる。
入口の脇には、新聞と雑誌。
少年漫画誌とフライデーという組み合わせに、昭和を感じる。
各種セットメニュー。
ラーメンセットには春巻が、つけめんセットには焼売がついている。こういったセットには、餃子がつきものなのに、ちょっと意外だ。
しかし僕は、逆に「餃子は(自慢料理なので)単品で頼んで欲しい」というメッセージを感じた。
などと思っているうちに…。
ニラ炒めが出てきた。
豚肉が結構入っており、正確には「肉ニラ炒め」と言った感。
僕は、ニラ多めの野菜炒めを想像していたので、なんだか得した気分だw
そしてこれが、実に美味しかった。
シャキシャキ感があるニラともやしに、柔らかい豚肉の歯応えが、ぴったり調和している。ちょっと濃いめの味つけもいい。
これは、一緒にご飯が食べたくなる炒め物だ。
しかし、僕はビールを飲んでいたし、このあとは、ご飯代わりの《主食》が出てくるのだから…と、グッと我慢。
その甲斐があって、出てきた主役は素晴らしいものだった。
そう。焼餃子のお出ましだ。
ぷっくりと膨らんだ、そのビジュアルは、明らかに手作りであることを示していたし、カリカリの焼き目も愛おしい。
最強の相棒、ビールとの競演。
タレと一体型の皿になっているのがちょっと残念なのだけれど、窮屈な場所で、餃子たちは、十分存在感を示している。
これは間違いなく美味しいと、僕は確信した。
一口囓ってみて、僕はその直感が正しかったことを知る。
僕の餃覚*1も、まだまだ衰えてはいないようだ。
具は、野菜の歯応えをしっかり残して丁寧に刻まれており、僕の好きなタイプ。
肉汁もじわっと感じるので、何もつけなくても十分美味しいが、つけるなら酢胡椒。
具の味わいを、上品に引き立ててくれる。
皮のかりかり感ともちもち感のバランスも申し分なく、ビールとの相性も抜群。
手間もかかっていると思うので、確かに、これはセットの付け合わせではなく、単品でじっくりと味わうべき餃子だと思った。
僕は、昭和の時間が流れる店内で、大いに癒やされるのを感じていた。
ひとり町中華を味わうには、最高の店だ。
*1:人間の基本的な五感に加えて、「餃子に関わる感覚」を表した餃界用語w