最初はとても違和感があった。
「5分間SF」というタイトルを見た時、そしてそれを読んだ時の印象だ。
SF短編の名手である草上仁氏の作品群だから、その内容については、もちろん文句なく楽しめる。
しかし、収録されている作品の長さはバラバラで、それらを「5分間」という括りでまとめるのは、ちょっと無理があるんじゃないかと思った。
草上氏は、あくまで「短編の名手」であって、ショートショート専門作家ではない。
適度な長さで、じっくりと読ませる重厚な短編も、無数に書いている。
しかもまだ、単行本化されていない(SFマガジン誌に掲載されただけの)作品が山ほどある。
それなのに、なぜ、短めの作品だけを集めて、無理矢理なタイトルをつけて売るのかなぁ…。ちょっと寂しくなった。
が、「SFマガジン」編集長、塩澤快浩氏のツイートを読んで、僕は得心した。
草上仁『5分間SF』が重版しました。ハヤカワ文庫には『2分間ミステリ』という20万部を超えるベストセラーがあります。『5分間SF』は、その読者向けに編集しました。草上仁ファンの皆様には物足りなかったかもしれませんが、26年ぶりの作品集を出すからには、次につなげられることが重要でした。
— 塩澤快浩 (@shiozaway) July 25, 2019
なるほど。そういうことだったのか。
草上仁氏は、オールドSFファンなら誰でも知っている作家で、人気も高いから、「草上仁の名前を知らないSFファンなんて、モグリだ!」と思う人が多い筈だ。(僕もそう思う。)
しかし、何しろ、もう26年間も(!)作品集が出ていなかったわけだから、最近は、「草上仁?いったい誰?」と思う人がいてもおかしくない。
それを考えると、出版社として、編集者としては、まず、この作品集の存在を認知してもらう、そして、この本が「売れる」ということが重要。
重版という結果は、「5分間SF」というタイトル(及び全体の趣向)が、見事に当たったと言うことになる。
流石は、早川書房が誇る稀代の名編集長だ。
雑誌不況の時代、文芸誌や中間小説雑誌が軒並み苦戦する状況で、「SFマガジン」誌が好調なのは、塩澤氏の手腕あってこそ。
そして、そんな名編集者が手がけたからこそ、この短編集も売れた、と言える。
「次につなげられることが重要」と言う、塩澤編集長の思惑通り、重版と言う結果が出た。
ならば、草上仁ファンとしては、やっぱり、次を期待してしまう。
この26年間、短編集こそ出ていないが、草上氏は、SFマガジン誌でコンスタントに短編を発表している。
それらを集めれば、まだ、これから何冊も短編集を発売できる筈だ。
僕はそれが本当に楽しみで仕方がない。
そして。
「5分間SF」で新たに草上仁ファンになった人たちに、僕は伝えたい。
草上氏には、まだまだまだまだ面白い作品があるよ、単に短いだけじゃない、読み応えのある作品もあるよ、と。
なぜか今は絶版になってしまった、かつての素晴らしい短編集たち。
何とか復刊してもらえないかなぁ…。