ここ東京は、現在、緊急事態宣言が発令中。
しかし、僕の仕事は、テレワーク化ができない種別のものなので、残念ながら出勤せざるを得ない。
それは、昨年の緊急事態宣言時も同様だったが、昨年と今年では明らかに違っている状況がある。
通勤電車内の混雑度だ。
昨年の宣言下では、それまで「すし詰め」だった車内が、目に見えてガラガラになり、座ることができる日もあった。
しかし、今回は違う。
宣言前とほぼ変わらない混雑ぶりで、日によっては、むしろ、以前より混んでるんじゃないか、と思うほど。
もちろん、路線によって、混雑度に違いはあるのだろうけれど、緊急事態宣言下とは思えない状況であることは間違いない。
それほどまでに人が溢れているものの、車内は、静寂に包まれている。
少しでも会話をすると注目をされ、咳でもしようものなら睨まれそうな状況。
ラッシュ時の通勤電車内は、もともとそれほど、会話があったわけではないが、こんなに殺伐とはしていなかった。
駅に着くたびに、客は入れ替わっていくが、車両の奥から降りようとする人は、「すみません」の一言もなく、ぐいぐいと、無言で人を押しのけてドアに向かう。
こんな時代だから、仕方がないのかもしれないが、何だかちょっと空しい。
電車内が静かなのは、ラッシュ時だけでなく、日中でも同様だ。
流石に会話ゼロではないけれど、ひそひそと声を潜めて、ひと目を気にしながら話している場合が多い。
僕は、電車の中での何気ない他愛ない会話を聞くのが、結構好きだったので、なんだかちょっと残念に感じている。
ということで…。
僕は今、車内ではもっぱら読書にいそしんでいるのだけれど、こんな時代だからこそ、心に染みた本があったので、ご紹介させていただくことにした。
その本の名は、「阪急電車」。
人気作家である有川浩の作品で、ミリオンセラーにもなっているものだから、「何を今更…」と言われるかもしれない。
でも、僕は、今読んで感動したので、今の喜びを伝えさせていただく。
これは、関西に実在している、阪急今津線を舞台にした連作短篇集だ。
宝塚駅と西宮北口駅を結ぶ8駅。片道わずか15分間の車内を舞台とし、その乗客たちが織りなすエピソードを、一駅ごとに綴っていく。
車内では、もちろん、さまざまな「会話」があり、それがきっかけで、ドラマが生まれる。
いやぁ、これが、どうにもこうにも素晴らしいのだ。
同じ電車に、たまたま乗り合わせた人たちが、車内で交わされた会話をきっかけに、繋がり合っていく。
恋愛の誕生、裏切り、別れ、家族の絆…。
たったひと駅走るまでの間、ほんのちょっとの会話を通して、物語の奥行きがぐいっと広がる。人の繋がりって素晴らしいなぁと心から思う。
短篇ごとに繰り広げられるさまざまなエピソードが、別のエピソードと微妙に交叉していく展開も見事だ。
物語は、いったん宝塚駅から西宮北口駅まで進み、いくつかの季節を経て、折り返し。
西宮北口駅から宝塚駅に向かう。
その車内でも、また、前半のエピソードと繋がる、あらたなドラマが展開される。
いずれの場合でも、登場人物たちの「会話」が実に生き生きしていて、僕は、ほっこりとした気分になった。
僕は、競馬好きだった頃、何回か、この阪急電車に乗ったことがある。
路線内の仁川駅近くには、阪神競馬場があったからだ。
しかしそれは、もう10年以上前のことなので、あんまり電車の記憶がない。
今、僕は競馬に全く興味がなくなってしまったが、今度は、阪急電車に乗るために、遠征してみたいなぁと思った。
遠征が出来る頃には、この小説と同じように、阪急電車の車内が生き生きとした会話に溢れていることを祈りたい。
小説を読んだあと、映画も見てみたのだけれど、これがまた、実に良かった。
小説の内容を忠実に辿っているが、実際の阪急電車を舞台に撮影されているのがいいし、主演3人(中谷美紀、宮本信子、戸田恵梨香)の演技が、これまた秀逸。
僕は思わず、目頭が熱くなってしまったほど。
殺伐とした今の時代に、心が和む、実にいい作品だ。
僕は日本映画を殆ど見ないのだけれど、それでも、この映画は「もう1度見たい!」と思った。
超オススメ。