豊洲市場、水産仲卸売場棟3階飲食店街。今朝6時過ぎ。
まだ早朝であり、しかも、寸前まで大雨が降っていたというのに、場内には、かなりの人が入っていた。
とりわけ…。
この店の行列は図抜けていた。
後で調べてみると、通常は、こんな時間でも、数十人の大行列になっているような店で、大雨だった分、まだ控えめだったようだ。
ただ、いずれにしても、僕は、華麗にスルー。
今日の僕は、目指す店が決まっていたからである。
雨と戦いながら、うなぎランナーとして走り抜き、僕はようやく、その店の前に辿り着いた。
店の名は、「福せん」。
築地市場時代から、鰻の名店として知られていた店だ。
入口の扉の横には、このようなお菓子が展示されていた。
いったいこれはどういう意味なのだろう…?と思って、パッケージを見ると、その理由が判明。
オー・ザック うなぎの蒲やき味
このスナックを監修している店だったのだ。
僕は、基本的に、こういったスナックを認めない立場なので、ツッコミどころはいくらでも浮かぶ。
単なるタレの味じゃないのか?
そもそも、何をどう監修しているのか?
など、疑問は尽きなかった。
ただ、まぁ、こういったところに名前が出るのだから、《老舗の名店》であるということは間違いないだろう。
と、そんなことを考えながら、店の前で開店を待っていると、程なく扉が開いて、中へ迎えてもらった。
やった、一番乗りだ!
店内は、それほど広くはないが、小綺麗で落ち着いた雰囲気。
僕は、カウンターに座ろうと思ったが、テーブル席に案内された。ゆったり座っていいと言う。
ということで、テーブルに座らせてもらい、前日から決めていたメニューを注文する。
「うな丼、お願いします。」
僕がそう注文すると、店員の女性は一瞬戸惑いを見せた。そして、メニュー表を持ってきて、僕にこう説明した。
「うちは、うな丼はなくて、お重になりますけど…。」
えっ?
僕は驚いた。そんな筈はない。出発前にWebサイトでしっかり確かめているし…。
店内にも掲示されている。
そう。
僕はこの、早朝1時間限定の、お得なモーニングセットを注文するために、ここまで走ってきたのだ。
もしかすると、今日は、土用の丑の日ということで、通常メニューのみになってしまうということなのだろうか?
僕は、少し不安になったが、店員さんに、あらためてこう告げた。
「えっと、モーニングのうな丼なんですが…」
僕がそう言うと、店員の女性は、「あっ。モーニングですか…。わかりました」と理解し、厨房に僕の注文を告げた。
僕は、注文が通ったことにホッとしつつ、心に疑問も浮かんできた。
いったい、なぜ、店員は僕の注文をすぐに理解してくれなかったんだろうか?
開店と同時に入ったのだから、当然、モーニングの時間帯である筈なのに、なぜ?
そんな僕の疑問は、しかし、すぐに氷解することになる。
店内は、いつの間にか、次々と人が入ってきて満員に。
まだ午前7時前だったというのに、こんな状態。
客層としては、市場関係者の常連と思われる人が多かったのだけれど、それらの人が…全員ノータイムで、うな重(松)を注文したからだ。
土用の丑の日だから…という雰囲気ではなく、ごく自然に「いつものやつ」という感じで、注文を告げていた。
どうやら、この店は、圧倒的に、うな重(松)が看板メニューだったらしい。
となると、店員の女性が、僕の注文で戸惑ったのも合点がいく。
まさか、開店前から一番乗りで待っていた客が、うな重以外を注文するとは思わなかった、ということだろう。
ただ…。
僕が注文した、モーニングメニューのうなぎ丼セットも、決して悪くなかった。
いや、その値段(1,400円)を考えれば、十分お得だと思っている。
鰻丼(小)、ごはん、とろろ(もしくは納豆)、漬物、味噌汁。
うなぎ丼とは「別」にご飯がついていることに驚いたけれど、これは、とろろで食べてくれということなのだろうか?
ご飯の量としては、2つあわせて丼1人前ぐらいなので、大きな丼で出すと鰻の小ささが目立ってしまうため、分けたということなのかもしれない。
鰻は、一切れのみで、iPhone SEよりもちょっと大きい程度。だから、寂しいと言えば寂しい。
ただ、味は文句なしだった。
鰻そのものは、鰻重と同様のものらしく、じっくりと時間をかけて焼き上げられている。
カリカリ感もふわふわ感も申し分ない。極上の鰻だ。
もちろん国産。
そう考えると、やっぱり1,400円でも安い!と思った。
ただ、あまりに美味しい鰻だったので、ちょっと後悔もしている。
これだけ美味しい鰻だったからこそ…。
やっぱり、この「うな重(松)」を食べるべき、だったのだ。
僕は、周り全員が食べている、このうな重が羨ましくてたまらなかった。
あぁ、折角豊洲まで走ってきたのだから、もっと、思う存分、この鰻を堪能したかったなぁ…。まして今日は、土用の丑の日ではないか。
今日ぐらいは、鰻を心ゆくまで味わうべきだった。バカすぎる。
あぁ、僕は、うなぎランナー失格だ。
明日からは、また、餃子ランナーとして生きていくことにしよう。