しばし、見惚れた。
「筒井康隆展」の入口に飾られた、圧巻の写真と言葉に、僕は、思わず胸が熱くなる。
いよいよ僕は、この夢空間に入場することができるのだ!
興奮せずにいられるものか。
入口までのフォトレポートは、この素晴らしきイベントにおける単なる序章。大いなる助走。
ここから先に待ち受けている展覧会こそが、まさに、圧巻。白眉。
いや、そんな単純な言葉では言い表せないぐらいの、夢空間だったのである。
会場内は、一部の場所を除いて撮影禁止。
だから僕は、受付で紙と鉛筆を借り*1、少しでもその感動を記録に残そうと努めた。
2時間超の滞在で、僕が書いた記録。
裏表あわせて、10ページにのぼる覚書。
書いても書いても、僕は、この感動を残しきれないと思った。
もともと悪筆な上に、興奮しながら書き綴ったため、今となっては自分でも読めない文字が多数w
ただ、折角メモを書いたのだから、テキスト化だけはしておかないともったいない。
僕の拙い文章力では、その素晴らしさを、とても伝えきれないのだけれど、せめて覚書として、ここに書き起こさせていただこう。
- 驚愕の「筒井康隆年表」(1934~2018)
- 圧巻すぎる「直筆生原稿」群!
- 直筆原稿全文掲示!
- 受賞トロフィー・賞状展示
- 「SF蜜月時代」展示
- 文学と音楽の饗宴
- 「時をかける少女」コーナー
- 「パプリカ」コーナー
- 「虚航船団」コーナー
- 筒井康隆作品マップ
- ファンジン、稀少品展示
- 「大いなる実験」ブース
- 「筒井康隆の妻、光子さん」コーナー
- 「断筆宣言」関連
- 画像編に続くw
驚愕の「筒井康隆年表」(1934~2018)
それは、暖簾をくぐった瞬間に始まる。
会場内の展示物を取り巻く形で、入口から出口まで続く。
1年1年、丁寧に写真と記事で、筒井先生の歴史を追っている、圧巻の、完璧な年表だ。
発生したイベントに関連する、写真やポスターなどもあわせて掲示されていて、「この年に、こんなことやあんなことがあったのか」「あれはこれと関係していたのか」などということがわかる。
代名詞ばかりじゃないか!と言われそうだけれど、あまりにもその内容が凄すぎ、豊富すぎて、ひとつひとつ細かく書き切れないのである。
詳しいところは、「実際に見て、その圧巻ぶりを確かめて欲しい」としか言えない。
僕は、会場を、何度も何度もぐるぐる回って、その凄さを再確認した。
圧巻すぎる「直筆生原稿」群!
会場内の各展示コーナーには、筒井先生による直筆の生原稿が多数展示されていた。
まだ、ワープロなどが存在しなかった時代。筒井先生が書き綴られた、達筆の生原稿だ。
これまでにも、僕は、先生の直筆原稿を拝見する機会はあったけれど、これほどまでの量をまとめて見たことはなかったので、その凄さに唸りまくった。
その作品名を、僕は、ひとつひとつメモに記録したので、以下、それを覚書として残しておく。
「密室の富豪刑事」「イリヤ・ムウロメツ」「美藝公」「メタモルフォセス群島」「ウィークエンド・シャッフル」「怪奇たたみ男」「夜も昼も」「条件反射」「玄笑地帯」「聖ジェームズ病院を歌う猫」「ダンヌンツィオに夢中」 「カラダ記念日」「ヨッパ谷への降下」「不良少年の映画史」「歌と饒舌の戦記」「原始人」「串刺し教授」「日々是慌日」「旅のラゴス」「新日本探偵社報告書控」「驚愕の曠野」
ざっと書き取っただけでもこれだけある。
特集コーナーに連動したものも多数あり、それは後述させていただくが、いやはや凄い量だ。
直筆原稿全文掲示!
会場内の壁面には、筒井先生の直筆で、その全てを読むことができる作品も掲示されていた。
流石に、生原稿ではなく複製原稿であるが、原稿執筆時の手書き修正や赤入れ部分などもそのまま掲載されているため、実にリアル。
そして、「手書きだからこそ素晴らしい」「手書きでこれを書いたのか!」と思える作品も含まれていたため、僕は、それを見ながら何度も唸った。
掲示されていた小説及びエッセイ群は、以下のものたち。
- 関節話法
- 星新一論
- 短編小説について
- 現在の平均的一日
- ピアノ弾きよじれ旅(山下洋輔)解説
- 蟹甲癬
- 夢-もうひとつの現実
- バブリング創世記
- シナリオ 時をかける少女
- 集団転移(旅のラゴス)
- 日本以外全部沈没
- 陰悩録
- 最後の喫煙者
これらの作品は、一部ではなく、その《全部》を、筒井先生の直筆で読むことができるため、まさに圧巻。
それを読めるだけでも、入場料(大人800円)分の価値があるのではないかと思う。
特に、「手書きでこれを書いたのか!」と唸ること必定の、
- 現在の平均的一日
- バブリング創世記
は必見!
ツツイストならば、作品名を見るだけで、それがなぜかはすぐにおわかりいただけると思う。
受賞トロフィー・賞状展示
- 日本SF大賞(朝のガスパール)トロフィー、賞状
- 谷崎潤一郎賞(夢の木坂分岐点)盾
- 泉鏡花文学賞(虚人たち)盾、賞状
- 紫綬褒章 賞状
- 大阪市市民表彰
- シュバリエ章
- ダイヤモンド・パーソナリティ賞
- フランス・パゾリーニ賞
まさに圧巻の受賞歴。
しかし、これだけでは終わらないのが、《筒井康隆展》の凄さ。
これらの展示に合わせて、「大いなる助走」の生原稿や、「芥川賞」「直木賞」の予選通過通知書も掲示されている。
僕は、あらためて、「大いなる助走」の破格ぶりと素晴らしさを実感した。(それを出版した文藝春秋も凄い!)
「SF蜜月時代」展示
4年前に開催された「日本SF展」との関連したコーナー。
日本SF史における、筒井先生の凄さ、素晴らしさをあらためて実感できる。
- 「SFコンテスト」佳作(無機世界へ)発表時のSFマガジン
- 「NULL」1号~11号
- デビュー作「お助け」掲載の「宝石」誌
- 「ネオNULL」1号~7号
- 「日本以外全部沈没」生原稿
- 「星新一論」生原稿
- 「SF教室」単行本
- 生原稿・下書き
- SHINCONの思い出(エッセイ)
- 日本SF作家クラブ 事務局長のことば
- 「日本SF作家クラブ」会報第1号
いやはや、よくぞここまでの資料が残っているものだ。
僕はこの時代をリアルに体験してはいないけれど、見ているだけで当時の情景が思い浮かんでくるような、素晴らしい展示群だった。
文学と音楽の饗宴
筒井先生と音楽の繋がりは、切ってもきれないものになる。
先生は、クラリネットをはじめ、さまざまな楽器を演奏されるし、ジャズ界との繋がりも深い。
このコーナーでは、それを感じさせてくれる関連書やレコード、CD群が展示されていた。
- 「バブリング創世記」生原稿
- 「ジャズ大名」生原稿、サウンドトラック
- 「ジャズ大名 筒井康隆と16人の浮かれる虚人たち」ソノシート
- 「筒井康隆文明」「家」LPレコード
- 「脱走と追跡のサンバ」文庫
- 山下洋輔「寿限無/山下洋輔の世界 VOL.2」(「活動写真」収録)
- 「漸然山脈」楽譜
- 筒井先生愛用のサングラス
「時をかける少女」コーナー
1965年にジュブナイル作品として発表。その後、何度も映画化、テレビドラマ化。2006年にアニメ化されたことで人気が再爆発。
関連書やCD、DVDなども多数発刊されているため、大きなコーナー展開がなされていた。
初出誌となった「中学三年コース」「高一コース」をはじめ、単行本、文庫本、映画の台本、各種ビデオ、DVD、などなど…。
映像版だけでも、原田知世版、南野陽子版、内田有紀版などがあり、この作品が何度も何度も愛され続けてきたことがわかる。
僕は小説版しか知らないのだけれど、いつか、DVDやアニメ版も見てみようと思った。
「パプリカ」コーナー
「時をかける少女」ほどのスペースはなかったが、「パプリカ」に関するちょっとしたコーナーもあった。
このコーナーでは、「パプリカ」作品そのものよりも、今敏監督による、アニメ版「パプリカ」がメイン。
筒井先生が、このアニメを高く評価していることが窺える。
ブルーレイに加えて、キネマ旬報ムック、フィギュアなどが紹介されており、コーナーの回りもパプリカのアニメーションで彩られていた。
「虚航船団」コーナー
筒井先生の代表作と言える「虚航船団」のコーナーもスポットで設置されていた。
ガラスケース内だけの展示ではあったけれど、生原稿、単行本、文庫本、関連エッセイに加え、作品に登場する文房具(!)が展示。
館内の壁には、「虚航船団」の《ホチキス》発言部分手書き原稿が、抜粋掲示されていて、これが実に面白かった。
《ホチキス》の発言って何だ?それがなぜ面白いんだ?と気になった方は…。
この名作を今すぐ読むようにw
筒井康隆作品マップ
いやはやこれは凄かった。
筒井先生の作品を、さまざまなジャンルに分類した圧巻のマップだった。
「SF」「ミステリ」「スラップスティック」「風刺」「パロディ」「純文学」「新傾向」「メタフィクション」「言語実験」「ホラー」「歴史小説」「実験小説」「音楽」「童話・ライトノベル」「ジュブナイル」「リリカル」「ファンタジー」「ピカレスク」「ブラックユーモア」「エロ」「グロ」「ナンセンス」
これらのジャンルは、さまざまに絡み合っており、その中に作品名が記載されている。平石滋先生による大労作で、必見。
分類の凄さもさることながら、筒井先生の作風の幅広さに、僕は、あらためて驚嘆した。
ファンジン、稀少品展示
「筒井康隆マップ」コーナーの近く*2には、ファンジン誌や、稀少品も並べられていた。
- 「冷やし中華」会報
- 日本筒井党による「脱走と追跡の情報」「デマ」1~4号
- 「虚航船団」限定版
- 公認FC・筒井倶楽部による「おれに関する情報」「ホンキイ・トンク」1~5号
- 「薬菜飯店」メニュー/Tシャツ
「大いなる実験」ブース
筒井先生の作品は、どれもこれも実験作と言えるけれど、「残像に口紅を」は、その中でも、特に異彩を放っている。
50音が1文字ずつ使えなくなっていく!という驚異の設定。
芸人のカズレーザーが、昨年、『アメトーーク!』で大推奨したことにより、再びベストセラーとなっている作品だ。
このコーナーでは、その執筆の際に使ったワープロ(SHARP製)も展示されていた。
筒井先生が、使えなくなった文字のキーに画鋲を貼り付けていた(という噂も流れた)ワープロだ。
このコーナーでは、「朝のガスパール」「モナドの領域」などに関連する展示物も置かれていた。
「筒井康隆の妻、光子さん」コーナー
筒井先生のエッセイにもたびたび登場する、愛妻光子さんのコーナーもあった。
先生とのツーショットパネルが多数掲示されており、その幸せそうな姿は、見ているだけで心が安らぐ。
月刊現代のインタビューや、週刊朝日掲載の「二人で食事」というコラムが展示。どちらも、筒井先生の、奥様への愛が満ちあふれていて、素晴らしい。
一時期、筒井先生が編集長を担当された「面白半分」誌では、「編集長御親族のページ」というコーナーがあり、光子さんの登場回では、光子さん作のエッセイが掲載。
今や伝説となっている「SF作家の妻」というそのエッセイを、このコーナーでは見ることができる。
また、「聖痕」の挿画なども担当されている、筒井先生の愛息・伸輔氏が、幼少時に書いたマンガ「こい」も必見。
「断筆宣言」関連
そのコーナーに入ると、いきなり、巨大な垂れ幕が目に飛び込んで来た。
断筆を解き、執筆を再開します
縦3m、横1.5mはあろうかという、超巨大幕だ。
それとともに、ガラスケースの中に、「断筆旗」という大きな旗も収められていた。
僕は、それを見て、筒井先生断筆時代の記憶がフラッシュバックした。
今を遡ること25年前。1993年。
筒井先生が断筆を宣言された時、僕は目の前が真っ暗になって、途方に暮れてしまった。
だから、その3年後、断筆が解除されたとき、本当に嬉しかったことを思い出す。
このコーナーでは、その他にも、断筆に関わる関連グッズが展示されていた。
- 「無人警察」(宣言のきっかけとなった作品)初出の「科学朝日」誌
- 「無人警察」を掲載した「角川書店 国語Ⅰ」(教科書)
- 「宝島30」に使われた断筆人形
- 「断筆祭」を記念した手ぬぐい
- 「執筆再開」「断筆中」色紙
今から思えば、「あんな時代もあったなぁ」というようなことなのだけれど、あのときは本当にショックでショックでたまらなかった。
それぐらい、僕にとっては、衝撃的な出来事だったのだ。
あれから、もう20年以上も経っているのか…。いやはや信じられない。
画像編に続くw
「筒井康隆展」には、この他に、まだ3つの大きな展示コーナーが残っている
- 「スタア・筒井康隆」
- 筒井書店
- 筒井康隆劇場
と呼ばれるゾーンだ。
この展示会の中で、この3つのゾーンだけは、写真撮影が許されていたため、僕はもちろん写真を撮った。撮りまくった。
これらのコーナーの魅力については、僕の拙い文章よりも、写真でお伝えした方が断然わかりやすい、筈。
ということで、以下、画像編をお楽しみにw