ニューヨークは、僕にとって特別な街だ。
世界で一番好きな都市だと言っていい。
初めて訪れたのは、2001年9月。
僕を迎えてくれたのは、天にも届くかのような摩天楼、イエローキャブの海、タイムズスクエアのまばゆい光だった。
華やかさと喧騒、そして何より「自由」な空気が、僕の全身を包み込んだ。
この街には、どんな夢だって実現できるような空気が流れていた。
そんな高揚感の中、迎えた滞在最終日の朝。
世界が変わった。
「あの」同時多発テロ事件が発生したのだ。
ほんの数時間前まで、力強いメッセージを発信し続けていた街が、一瞬にして静寂に包まれた。
暗転。
ニューヨークという都市が放つ光と影――そのコントラストを、僕はほんの数日の滞在で体験することとなった。
以来、僕の中でニューヨークは単なる「好きな都市」ではなく、「生涯忘れられない街」になったのである。
それから数年間、僕は年に一度の有給休暇を使って、必ずニューヨークを訪れていた。
セントラルパークを歩き、街角のカフェでコーヒーを飲み、ブルックリン橋を渡る。
行くたびに新しい発見があり、この街の奥深さにますます惹かれていった。
ランナーになってからは、その愛情はさらに深まった。
ニューヨークシティマラソンを2度走った時の興奮は、今でも忘れられない。
スタテンアイランドから、世界最大の吊り橋を渡ってブルックリンへ。
クイーンズ、マンハッタン――沿道の大声援が、どこまでも、いつまでも続く。
ブロンクスでの日本太鼓応援に痺れた後、再びマンハッタンに戻ってくる瞬間の高揚感。
ニューヨークの5つのエリア全てを堪能できる、極上のコース設定なのだ。
フィニッシュ地点がセントラルパークというのもたまらない。
僕は、ますますニューヨークという街に惚れこんだ。
しかし最近は、仕事の都合で長期の休暇を取るのが難しくなり、訪れることが難しくなってきた。
日本からニューヨークは、やっぱり遠い。
フライト時間だけで13時間。時差13時間。
気軽に「ちょっと行ってくる」なんて言える距離ではない。
――と思っていた、その矢先。
そんな常識を覆すニュースが飛び込んできて、僕は目を疑った。
東京-NYが、宇宙経由で60分!?
まるでSF映画の見出しのようなニュースが、現実に流れてきた。
……え、マジで?
しかも発表したのは「日本旅行」。
民間人向けに提供予定だという。
冗談ではなく、2030年代の商用化を目指しているというのだから驚きだ。
往復1億円。
その額面だけ見ると法外にも思えるが、宇宙旅行体験ができる上に、たった60分でニューヨークに着くと考えれば、“ロマン価格”として、適正な気もしてきた。
もちろん、ロケットに乗るには訓練も必要だろうし、離着陸は洋上プラットフォーム。
そこからの移動や手続きも考えると、現実的には1日がかりの大冒険になるはずだ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
このニュースには「夢」がある。SFの世界が現実に近づいているワクワク感がある。
そして、僕にとっての特別な街――ニューヨークが再び身近になる、そんな未来が見えた気がした。
2030年代。
そのとき僕の年齢を考えると、体力的にも参加は不可能な気もするけれど、夢を見るのは自由だ。
宇宙経由でのフライトを、心の中では予約しておきたい。
……とりあえず、年末ジャンボでも買っておくかw


