山中伸弥教授。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した、日本が誇る医学者だ。
そしてまた、山中教授は、生粋のランナーでもある。
「ランニングが趣味の医学者」というだけならば、それほど珍しくはないと思うが、教授の凄いところは、ノーベル賞受賞後に《進化》しているということ。
2012年3月の京都マラソン。この時、山中教授は49歳。
自身が完走することを条件に、クラウドファンディングでiPS基金への寄付を呼びかけた時のタイムは、4時間29分53秒。
マラソン用語で言えば、4時間半切りを意味する「サブ4.5」クラスのランナーだった。
同年の11月、教授はノーベル賞を受賞し、もちろん多忙になっていく。
しかし、そんな中でもランニングを欠かさず、しかもタイムを上げていく!
一般的なランナーは、40代から50代になれば、スピードが落ちていくのが常なのに、教授は、違う。
2015年の京都マラソンでは、52歳で3時間57分31秒。いわゆる「サブ4」を達成。
さらに、2017年の京都マラソンでは、54歳で3時間27分45秒。いわゆる「サブ3.5」を達成したのだ。
そして…。
2018年には、サブ3.5のランナーしか出走できない、《ガチの》別府大分毎日マラソンに出走。
55歳にして、3時間25分20秒。自己ベストを更新したのである。
しかし、これでもまだ、教授の快進撃は止まらない。
今年の2月。小雨が降る京都マラソンで、57歳という年齢ながら、さらに記録を伸ばしている。
いやはや、凄い、凄すぎる、というしかない。
この京都マラソン終了直後、日本でも、新型コロナウイルスの影響がとりざたされるようになり、東京マラソンから一般ランナーが除外。
他の大会も、それに倣って、続々中止へと傾いていく。
生粋のランナーである山中教授としても、その状況は憂うべきものであったろう。
だから、そんな教授が、HPで新型コロナウイルスに関する情報発信を始め、こんな言葉を語ったことが、僕の心に大きく突き刺さった。
新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです。
まさに至言であり、マラソンレースのつらさを知り尽くした教授ならではの、重たい言葉だと思う。
名だたるノーベル賞学者だけに、発言には慎重を求められる立場だと思うのだけれど、しかし、教授は恐れなかった。
3月31日。「批判を恐れず、勇気を振り絞って5つの提言をします。」として、具体的に、五つの提言を発表したのだ。
- 提言1 今すぐ強力な対策を開始する
- 提言2 感染者の症状に応じた受入れ体制の整備
- 提言3 徹底的な検査(提言2の実行が前提)
- 提言4 国民への協力要請と適切な補償
- 提言5 ワクチンと治療薬の開発に集中投資を
提言の詳細は、リンク先に詳しく記載されているが、《提言1》がとりわけ重要だと思われるため、引用紹介させていただく。
提言1 今すぐ強力な対策を開始する
ウイルスの特性や世界の状況を調べれば調べるほど、新型ウイルスが日本にだけ優しくしてくれる理由を見つけることが出来ません。
検査数が世界の中でも特異的に少ないことを考えると、感染者の急増はすでに始まっていると考えるべきです。対策は先手必勝です。
中国は都市封鎖をはじめとする強硬な対策をとりましたが、第1波の収束に2か月を要しました。
アメリカの予想では、厳密な自宅待機、一斉休校、非必須の経済活動停止、厳格な旅行出張制限を続けたとして、第1波の収束に3か月かかると予測しています。
わが国でも、特に東京や大阪など大都市では、強力な対策を今すぐに始めるべきです。
果たして今、日本でそのような対策がとられているだろうか。
いや。とられていないからこそ、教授はこのようなメッセージを発信したのだと思う。
こういった意見は、他の学者・専門者たちからも出ているが、ノーベル賞受賞者である、山中教授の言葉だけに、重たく響く。
コロナウイルスとの戦いは、まさにマラソンレース。真剣に、本気で対策をとり、うまくペースメーキングをしていかなければ、克服できない。
「マスク2枚を5千万世帯に配布」というのが、果たしてまともな対策と言えるのか…。
僕には大いに疑問だ。