2019年初の足柄峠走を終え、僕はかなりお腹が空いていた。
それはそうだろう。早朝からの30km走、しかも、激しい峠を登って下ってきたのだ。当然の生理欲求と言っていい。
しかもこの日は…。
久しぶりに、峠の麓で温泉を堪能。喉もカラカラに渇いてしまった。
しかしそれは、僕にとって、当初からの予定通り。
そんな身体だからこそ、最高に美味しい「餃ビー」が味わえる。正直、僕はそれをずっと夢見ながら、走り続けていたのだ。
僕の人生にとって、ランと餃子は、常にセットで存在しており、切り離すことはできない。
それはもちろん、足柄峠走においても同様で、以前には、こんなエントリーも書いている。
あぁ、どの店の餃子も美味しかったなぁ。
その後の峠走時に訪れた、「餃子屋という名の餃子屋」も最高だった。
今回も、これらの店に行けば、安心して美味しい餃子に辿り着けるだろう。
しかし僕は、「それじゃ面白くない」と思った。
折角、東京から足柄地区まで遠征しているのだから、その機会を生かして新規店開拓をしたい。
しかも、新年初の餃ビー。新鮮な気持ちで味わいたい。
ということで、僕が今回選んだのは…この店だった。
マイクロブロワリーに併設の、自家製クラフトビールが飲める店。
ラン仲間の友人から、ここで、最高のラム餃子が食べられるという噂を聞いたのだ。
以前、この店で餃子フェアが行われた際、一番人気となり、定番メニュー化したという、揚げ餃子。いやがうえにも期待は高まる。
できたてのクラフトビールにラムの揚げ餃子。どう考えても美味しいに決まっている。
これは行くしかない!そう思った。
ビアバーということで、平日は夜のみの営業になるようだったけれど、土日は、昼間も営業。
それは、峠走の前日に、予め電話で確認しておいたから、間違いない。
ということで、僕は、カラカラの身体で、意気揚々と店に向かった。
峠走の拠点である山北駅から、《松田/新松田》を経て1駅目、小田急線の開成駅で下車。
Googleマップを頼りに、閑静な住宅街を歩くこと10分。
「こんなところに、本当に、ビアバーがあるのだろうか?」と思っていた矢先、突如として、店が目に入った。
陽光に包まれたその姿は、とても眩しく見えた。
店舗の前には、案内板とともに、メニューが置いてあったので、1枚確保。
店の入口も洒落ている。
さぁ、いよいよ、待ちに待った、至福の餃ビータイムだ!
僕は、席につくや否や、店舗前で確保したメニューを広げる。
まずは、なんと言っても、ラム餃子。
これを注文しなければ!
…と、思っていたところ、店員の男性が、僕に語りかけた。
「すみません、それ、ちょっと古いんです。うち、定期的にメニューが変わりまして…。最新のメニューはこれです。」
と言って、僕に、違う色で書かれたメニューを渡した。
僕は、まぁ、どっちにしても最初に頼むのは決まっているんだし…と思いながら、そのメニューを眺めると…。
え…えっ、えっ?
ラム餃子がない!
緑のメニューでは、左の下隅に書かれていた、その名前が消えている。
僕は、書かれている場所が変更になったのかと、全ての料理名を一通りくまなく眺めてみても、その名前は見つからなかった。
僕は慌てて、店のマスターと思われる人に、「ラム餃子は…?」と尋ねた。
ただ、僕は、まだ落ち込んではいなかった。
昨年末、餃子好きの友人が、ここでラム餃子を食べていることを知っていたからだ。
たとえメニューには記載されていなくても、別途に注文できると思った。
しかし…。
マスターからの回答は、そんな僕の望みを打ち砕くものだった。
「あ。ラム餃子は終了しました。」
うわっ。嘘だろ。
僕は思わず大きな声を上げたくなった。
定番化したんじゃなかったのか。それを目当てにここまで来たのに。
僕は、大きなショックで目の前が真っ暗になりそうだった。
呆然とした、そんな僕の表情を見かねてか、マスターは、次のように言い足した。
「昨日まではあったんですけど…。今回は、いったん終了しましたが、また、すぐに復活すると思います。」
僕は、そんな、慰めの言葉(?)を、うつろな気分で聞いていた。
餃子がない…ということで、一瞬、そのまま帰ることまで考えたが、身体は乾ききっていたから、やっぱりビールは飲みたかった。
ということで、なんとか気を取り直し、注文。
どれもこれも魅力的な、クラフトビールメニューの中から、「しっかりの苦み」が売りというアンバーエールを注文。
小粋なお通しと共に味わったそのビールは、とても美味しかった。
…が、ラム餃子を食べられなかった痛恨で、その苦みは、僕の身体に染み渡った。
水菜とわさび菜のサラダ。
いやはやこれは美味しかった。地元でとれた新鮮な野菜を使っているとのことで、シャキシャキで、味付けも抜群。いくらでも食べられそうだった。
クラフトビールのお替わり(ベルジャン)と、自家製ソーセージ。
このソーセージも、また、絶品。一緒についてきた添え物は、コーンで、これもまた味わい深かった。
僕は、これらのビールと料理に感服しつつ、一方で、複雑な思いが、胸に去来してきた。
「これだけ料理が美味しいのだから、ラム餃子もきっと最高だったんだろうなぁ。」という、思いだ。
それを、極上のクラフトビールとともに、味わいたかったなぁ…。
マスターの対応も、店内の雰囲気も素晴らしかったので、僕は、この店がとても気に入った。
他の料理も、きっと、どれもこれも美味しい筈だから、ゆっくりとそれを味わいたい気分もあった。
しかし。
僕は、ようやく我に返った。
この日は、もともと、新年初の餃ビーを目論んで、開成にまでやってきたのだ。当初の目的を見失ってはいけない。
餃子ランナーである以上、峠走帰りに餃子なしで済まされるものか。
ということで…。
僕は、逆襲の一手を繰り出すべく、舵を取った。