新しい時代がやってきた。
藤井聡太王座(竜王・名人・王位・棋王・王将・棋聖)が、王座戦五番勝負で挑戦者・伊藤匠叡王に2勝3敗で敗れた。
それにより、将棋界の「絶対神」は七冠から六冠に後退。
八大タイトルのうち、《別格》の名人位と竜王位を保持しているのだから、依然として最強であることに変わりはない。
これまでがあまりに絶対すぎたため、感覚が麻痺しているが、AI研究によって棋界全体のレベルが上がる中、六冠というのはなお凄まじい状態だ。
ただ、昨年の叡王に続き王座も失ったことで、「1強」体制に楔が入ったのは間違いない。
しかも両棋戦とも同世代の伊藤匠王座に敗れたことで、「藤井世代の2強」時代に突入したとも言える。
伊藤王座はデビュー初期、藤井六冠に11連敗していたが、昨年4月の叡王戦五番勝負第2局で初白星を挙げて以降、本局を含めて6勝3敗と勝ち越している。
いやはや、これは凄いことではないか。
叡王戦は、8大棋戦の中では新しい棋戦で、羽生永世七冠がかつて七冠を制覇していた時代には、存在しなかった。
だから、叡王戦タイトルを失っただけならば、まだ、藤井《絶対神》のままだったとも思える。
しかし、70年以上続いている伝統の王座戦タイトルを失った意味は大きい。あまりに大きいのだ。
叡王戦と王座戦の番勝負は、8大タイトルの中で、他の棋戦とは違った持ち時間管理をしている。
いずれも「チェスクロック方式*1の1日制対局」ということだ。
序盤からじっくり時間を使う藤井六冠にとって、これは相性が悪かったのかもしれない。
一方、残りの棋戦はすべて「ストップウォッチ方式」*2で行われるため、終盤に時間を残しやすく、終盤力の強い藤井六冠には合っている。
持ち時間がたっぷりある二日制棋戦なら、なおさらだ。
だから、まだまだ残りの棋戦では、藤井六冠の強さは揺るがないかもしれない。
とはいえ、これまでは「死角」すら存在しなかった《絶対神》の牙城が崩れたのも事実。
しかし僕は、逆にワクワクしている。
同世代の伊藤新王座が残りの二冠を手にしたことで、ようやく本当の意味での“ライバル”関係が生まれたからだ。
藤井六冠も伊藤新王座(二冠)も、まだ23歳。若い。実に若い。
藤井六冠がこのまま崩れ続けるとは思えないし、伊藤新王座も、これからますます強くなっていくだろう。
藤井《絶対神》による1強時代から、藤井-伊藤の同世代2強時代へ。
将棋界がますます面白くなってきたぞ。


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