今年7月、僕は「モバイルバッテリーの機内規制強化」について書いた。
収納棚への保管禁止や、中国・韓国での厳しい対応など、世界的に規制の波が押し寄せていることを紹介した。
それから僅か3ヶ月で、規制もやむなしと思える事件が発生した。
そう。ANAの機内で発火事故が起きたのだ。
- 旅客機内で実際に起きた「発火」
- 7月に始まった“強化運用”で回避できた大惨事
- “なぜ今になって”発火が目立つのか
- 「火」ではなく「電気」がリスクの中心へ
- 今後のシナリオ:「持ち込めるが、厳しくなる」
- 旅人として、いまできる備え
- そして、未来への警鐘
旅客機内で実際に起きた「発火」
10月9日、那覇発羽田行きのANA994便の機内で、座席下の手荷物に入っていたモバイルバッテリーが発煙。
近くにいた乗客が持っていた水をかけ、幸いにも初期消火に成功した。
機体は安全に着陸し、けが人もなかったという。
報道では軽微な事案として扱われているけれど、実際には「あと一歩遅れていたら熱暴走に発展していた可能性」もある。
つまり、今回の発火は“軽傷で済んだ重症事故”だったのだ。
7月に始まった“強化運用”で回避できた大惨事
この7月、日本の航空各社(JAL・ANA)は、モバイルバッテリーの機内管理ルールを強化したばかりだった。
- 収納棚(オーバーヘッドコンパートメント)への保管禁止
- 常に手元で状態が確認できる位置に置くこと
- 預け荷物(チェックインバゲージ)への収納は絶対禁止
つまり、ANA自身が定めたばかりの「手元管理ルール」の延長線上で、そのリスクが実際に“顕在化”してしまったのである。
もしもこの規制をしていなかったら…。
荷物棚の中にこのモバイルバッテリーが入っていたら…。
と思うと、僕は恐怖に怯えてしまう。
7月の記事でも触れた通り、航空機でのバッテリー火災は世界的に増加している。
韓国では今年1月、LCC「エアプサン」で機内火災が発生し、その後、荷物棚への保管は禁止。
イースター航空では、絶縁テープやジップロック封入が義務化された。
中国ではさらに厳しく、6月から「3C認証」がないモバイルバッテリーの国内線持ち込みが全面禁止。
こうして世界的に締め付けが進む中でのANA機内発火。
規制強化の理由が、まさに現実として突きつけられた格好だ。
“なぜ今になって”発火が目立つのか
ただ、僕はここでふと疑問に思った。
モバイルバッテリーが登場してからすでに10年以上経っているというのに、なぜここ最近になって発火トラブルが急増しているのだろう。
その背景を調べてみて、以下のようなことがわかった。
- エネルギー密度の上昇
同じサイズでより大容量化が進み、発熱リスクも比例して高まった。 - 粗悪・無名ブランドの流通
通販や海外製の格安バッテリーが氾濫。PSEマークや品質試験を経ていない製品が増えている。 - 老朽化したセルの再利用
リサイクルバッテリーや中古品の再販売が一部で行われており、劣化セルが混ざるケースがある。 - 多機能化による常時通電リスク
ライト・ヒーター・ワイヤレス充電など、多機能化した結果、常にON状態の製品が増えている。
多種多様なモバイルバッテリーが乱造されているために、結果として、目に見えない「火種」が、世界中で増えているのだ。
「火」ではなく「電気」がリスクの中心へ
かつて、航空機におけるリスクの象徴は「火」だった。
だからこそ、タバコやマッチ、ライターが全面禁止になった。
だが今は、“火を使わない電気”こそが、最大の火種になっている。
しかも厄介なのは、電気火災は目に見えないまま進行するという点だ。
劣化セルが内部でショートしても、外見では分からない。
ある日突然、座席下のバッグが発煙する。今回のANAのケースがまさにそれだ。
恐ろしすぎてたまらない。
今後のシナリオ:「持ち込めるが、厳しくなる」
今回の事故を受け、すぐに「全面持ち込み禁止」になる可能性は低い。
だが、実質的なハードル上昇は避けられない。
具体的には、次のような段階的強化が予想される。
- 機内での使用(充電)禁止
- 持ち込み可能な個数・容量の制限
- ブランド・認証マーク(PSE、3C、ULなど)の提示義務
- 無名メーカー・非認証製品の搭乗拒否
航空各社・各国当局が、同様のガイドラインを共有し始めれば、
“事実上の持込み制限”が広がるのは時間の問題だろう。
旅人として、いまできる備え
僕たちがすぐにできることは、たった3つ。
- 信頼できるブランドを選ぶ(PSEマーク必須)
- 機内では手元に置く(棚・足元放置禁止)
- 異常発熱・膨張を感じたら即申告
「万が一の時は水で冷却」が有効であることも、今回のケースが証明した。
ただし、水では鎮火できても再発火のリスクが残る。
消えたように見えても、内部では反応が続く可能性があることを忘れてはならない。
そして、未来への警鐘
3ヶ月前、僕は「もしかすると将来、モバイルバッテリーが持ち込めなくなるかもしれない」と書いた。
今では、その「かもしれない」が、「現実味を帯びてきた」に変わった。
モバイルバッテリーは、旅に欠かせない存在だ。
だが同時に、空の安全を脅かしかねない存在でもある。
僕ら利用者がリスクを意識し、正しく扱うことでしか、「全面禁止」という未来を避けることはできない。
最悪の未来が訪れないよう、搭乗者一人ひとりの意識を変えていく必要があると思う。

