足柄峠のふもと、山北で熊が出た。
その知らせを最初に知ったのは、僕が心酔している岩本能史先生のツイートだった。
【注意⚠️】
— 岩本能史 nobumi iwamoto (@nobumi_iwamoto) 2025年11月4日
山北でもクマ
レース期真っ只中ですが、峠走は控えてください
(行っちゃダメ!) https://t.co/5IUqEbq1nK
「行っちゃダメ!」。
岩本先生はそう警告されていた。
足柄峠走の提唱者である岩本能史先生が、自らそう発信するということ。
それは、単なる注意喚起ではなく、極めて重たい意味を持っていると思う。
僕には、まるで“聖地封鎖”のような衝撃だった。
僕にとって、足柄峠走はただの練習ではない。
山北駅から峠の頂上までの片道12km、標高差630m。
往復24kmの道程の中に、ランナーとして必要なすべてが詰まっている。
上りでは心肺と意志を鍛え、下りでは脚筋と集中力を試す。
推進力・心肺機能・フォーム・着地筋――
ランニングに必要な4要素を、これほど効率的に鍛えられるコースは他にない。
僕は、これらの知識を岩本能史先生の著書から学んだが、峠走を重ねるうち、まさにそれが真実であることを実感した。
この峠走に出会っていなければ、僕はサブ4も、サブ3.5も達成できなかっただろう。
それほどまでに、足柄峠は僕にとって特別な場所だ。
僕が初めて峠走を行ったのは、もう14年も前。
あまりの辛さと、峠走後の極楽(さくらの湯)に痺れたことは今でも忘れない。
その後僕は、何十度も山北まで遠征して峠走を行っている。
霧の朝も、炎天下の午後も、凍てつく冬も。
激しい傾斜に何度も心を折られながら上り詰め、下りの快楽に酔いしれてきた。
頂上で富士山を仰ぎ、下山後に「さくらの湯」で汗を流し、帰路の途中で餃ビーして心を癒す。
僕にとってそれが“足柄峠走”の一日だったのだ。
だから、腰の故障が治ったら、いつか必ず行こうと思っていた。
そんな矢先に、僕は、岩本先生の「行っちゃダメ!」を見たのである。
熊が出たというのは、足柄峠走のスタート地点――山北。
これまで何十回と立った、あの出発の場所だった。
足柄峠といえば、「金太郎伝説」の舞台として知られる場所だ。
金太郎といえば熊。
けれど、まさか現実に熊が出没しているとは思わなかった。

足柄峠の頂上には、金太郎と熊の顔出しパネルがある。
昔話の中で、熊は金太郎の友であり、力比べの相手でもあったのだ。
人と熊が共に生きていた象徴のような存在。
けれど現代では、熊の出没は「ニュース」「警告」「恐怖」になってしまった。
いやはやなんとも、恐ろしいことだ。

