(承前)
目覚めて、起き上がった瞬間は、「やった!」と思った。
前日までの眩暈や吐き気が嘘だと思えるほど、爽快な気分だったからだ。
僕は、米国にいることを思い出し、洋画でよくあるシーンのように、「YES!YES!!」と叫びたくなった。
なので僕は、朝ランに出かけることにした。
病み上がりということを考えれば、自重するべきということはわかっていたのだけれど、やっぱり我慢できなかった。
参加していたツアーで、「あの」イリーナ・ミキテンコ選手*1と、一緒に走れるトレーニングラン。僕は、この機会を逃したくなかった。
ということで…
走った!
壮大な摩天楼の街を…。
朝日に輝くミシガン湖沿いを…。めちゃめちゃ気持ちいい7㎞ラン。
ミキテンコ選手と話したりすることはできなかったけれど、シカゴを一緒に走るメンバーたちとともに、最高のトレーニングができたと思う。
前日は、どうなることかと思ったけれど、そして、当日も少し迷ったけれど、走ってよかった!
ラン後は、ホテルに帰って、シャワーを浴びて、朝食を食べ、そのあとはEXPOに出発の予定。最悪の状態を脱して、すべてが好転してきた筈だった。
が…そうはならなかった。
EXPO会場への出発時間を考えると、あまり時間がなかったため、僕はすぐにシャワーを浴びて出発しようと、慌てて部屋に戻った。
浴槽にお湯を流し、いざ入ろうとしたとき、僕は、身体の重心を失った。今度は眩暈のせいじゃない。足が滑ったのだ!
慌てて入ろうとしたせいもあって、僕は、大いに油断していた。浴槽の中は、つるつるで、僕はバランスをとることができなかった。
今から考えれば、この時、素直に浴槽で転んでいれば、まだマシだったかもしれない。臀部を打つだけで済んだと思うからだ。
しかし、僕は抵抗してしまった。滑る浴槽から逃げ出そうと、またいで外に出ようとした。この判断が最悪。
僕は、一度失った重心を取り戻すことができず、浴槽の外の床に大きく臀部を打つと同時に、浴槽の縁にふくらはぎを大きく打ちつけてしまった。
「痛っ。いたたたた。」嘆いてみても、あとの祭り。
歩けないほどの痛みではなかったが、走りには確実に影響が出そうな打撲。僕は、一難去ってまた一難というような状況で、目の前が真っ暗になった。
しかし、前回は不可抗力だが、今回は、油断による自業自得。つくづく、自分のバカさ加減を呪った。
結局、昨日は、EXPOにこそ出かけたけれど、その他に出かける気力もなく、会場から戻ってくると、また休養をとることに。
起きたら痛みが治まっていることを信じて、早めに就寝。睡眠もたっぷりとったのだけれど…。ダメだった。
ということで、僕は泣く泣く決断した。今日のファンランイベント「シカゴ5K」を見送ることに決めたのだ。
このレースは、今年が第1回の記念イベント。ツアー仲間はみんな出場していたし、天気も良かったので、走りたかったのになぁ…。
無理すれば走ることもできたと思うのだけれど、ここで無理してさらに身体を痛め、本番に出場できなくなったら、目も当てられない。
ということで、今日もほとんど街歩きはせず、餃子を食べるぐらいにとどめ、足を休めることに専念した。
あと9時間後にはレースが始まる。身体は不安いっぱいだけれど、でも、もう、悔やんでも嘆いても仕方ない。
今の身体で、できる限り頑張って、しかも楽しく走りぬきたいと思う。
*1:2007年に、35歳でマラソンに転向。翌年のロンドンマラソンを優勝。ベルリンマラソンでは、当時、世界歴代4位の好記録で圧勝。30代後半のランナーにして、世界のトップランナーに君臨したスーパースター