餃子ランナーは電子機器の夢を見るか?

ランと餃子とデジタルガジェット。ときどき、映画や雑誌の話。言いたいことを言い捨てるブログ。

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悲報

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まさか、嘘だろ。どうか嘘だと言ってくれ。頼む。
昨日の午前中。最初にその情報を目にした時、心の中でそう叫んでいた。まだ噂レベルの段階だったので、大がかりに仕掛けられたデマという可能性を信じた。
しかし、嘘ではなかった。時が経つ毎に、その情報は広まり、午後になると、ニュース系のサイトなど公式なメディアにも告知されることになったからだ。
栗本薫/中島梓
その名前は、僕にとって、特別な響きを持つ作家だった。中島梓名義における、評論界への華麗なるデビューは、今でも鮮明に覚えている。最初の出会いは、確か、筒井康隆論だったと思う。その緻密な分析力と、構成力、そして鮮明な文体に、僕は酔った。
その素晴らしい評論家が、今度は栗本薫名で江戸川乱歩賞を受賞。その才人ぶりに、あらためて敬服した。当時、僕はあまりミステリに興味がなかったので、受賞作の「ぼくらの時代」を読んだのは、かなり後のことになるけれど、最高に爽快で、面白かった記憶がある。もちろん3部作全てを読んだ。
あまりにも多彩で多作な作家だったから、デビュー以来の華麗な執筆活動を、一口で語ることはとても難しい。ただ、ひとつ確実に言えることは、「壮大な物語作家」であったということだったと思う。本当に、小説を書くことが、物語を作ることが好きな作家なんだなぁ、ということが、どんな作品を読んでも伝わってきた。
僕にとって、一番印象的な思い出は、グイン・サーガの幕開けだった。
20年以上前からのSFファンで、当時からSFマガジンに心酔していた僕は、その幕開けの瞬間を、今でも鮮明に覚えている。グイン・サーガは、登場とともに圧倒的な支持をもって受け入れられ、SFマガジンにおいても、まるごとグイン・サーガという内容の臨時増刊号まで発売された*1ほどだ。
日本初の本格的な「ヒロイック・ファンタジー」であり、当初100巻での完結を目指すという構想を聞いた時は、あまりに無謀だとは思いつつ、彼女ならば、実現してもおかしくないと思っていた。いざ読みはじめてみると、そのスケールの大きさと物語世界構築の才に、あらためて痺れた。これならば、100巻だって決して夢じゃないと思えた。
ただ、あまりにも矢継ぎ早に刊行されるため、根気のない僕は、途中で追いつけなくなってしまった。僕がグインに出会った時期は若く、時間がいくらでもあると思えた時代でもあったので、あとでまとめて読もうと思っている内に、すっかり取り残されてしまった。
今後、時間がゆっくりとれたら、いつか追いつこうと思っていたのに…。
ということで、僕はグイン・サーガの愛読者になりきれないままだったし、他の多彩な作品群も、囓った程度*2にすぎないけれど、それでも、その存在の大きさは、20年来、常に意識していた。
僕が最も好きだったのは、作家初期の頃に多数書かれたSF短編群だ。SF系の短編集(7冊)は全て持っていて、何度も何度も読んだ。SFへの深い造詣と愛情がなければ絶対に書けないような作品ばかりで、そのどれもこれもがとても印象的だった。
いつしかグイン・サーガは100巻をゆうに超え、正伝126巻、外伝21巻の未曾有な領域にまで達した。まだまだ永遠に続く、未曾有の物語世界にまで上り詰めていくと思っていたのに。まさか、こんな形で終焉を迎える*3とは…。
グイン・サーガに限らず、今後、栗本薫名義での、新しい物語世界が構築されることは、永遠に、ない。それが僕にはあまりに無念だ。
もしかすると、まだ執筆済みで上梓されていない作品が、いくつか発売されるかもしれないけれど、それが出尽くしたら終わりだし、そもそも新作ではない。痛恨すぎて涙が出る。
それにしても…。昨年来から、SF作家の訃報があまりに多すぎる。この1年を振り返るだけでも、アーサー・C・クラーク、マイケル・クライトン、トマス・M・ディッシュ、バリントン・J・ベイリー、野田昌宏、今日泊亜蘭、伊藤計劃…。
栗本さんは、多種多彩な「物語作家」だから、SFというジャンルに括ってはいけないのだろうけれど、SF界にとって、欠かすことのできない重要な作家であったことは間違いない。
ここ数年は、膵臓癌に苦しみながら、執筆を重ねていた日々だったという。伊藤計劃氏の時も強く感じた*4のだけれど、癌という病気の怖さについては、あらためて胸が痛くなる。まだ、56歳。若い。若すぎるよ。あぁ。
合掌。

*1:当時のSFマガジンとしては、非常に異例で、あっと驚くほどの画期的企画。

*2:耽美系だけはどうしても馴染めず、囓ることもできなかった。

*3:他の作家が書き継ぐという構想もあり得るらしいが、栗本薫氏がこれまで作り上げられた物語世界の改竄に思え、僕は承伏できない。

*4:今年、肺がんにより、30代半ばにして夭折。


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