今年度のオスカー授賞式で、世界中の映画ファンに大きな印象を残した話題作。
あの「ラ・ラ・ランド」から作品賞を奪った(?)映画、「ムーンライト」。
前代未聞の発表ミスがあったせいで、いわくつきの作品になってしまったが、逆に言うと、それでかえって、話題性が高まったと考えることもできる。
なんと言っても、「ラ・ラ・ランド」に、作品として勝った映画なのだ。それも、こんないきさつがあっては、洋画ファンの一員として、注目せずにいられない。
ということで、受賞前は全く興味がなかった作品なのだけれど、公開2日目に見に行くことにした。
低予算で作られた映画ということもあり、派手な「ラ・ラ・ランド」に比べると、何もかもが地味だ。
登場人物は、ほぼ黒人で、そのテーマは冷たく重たい。
いじめ、人種問題、ドラッグ中毒…そして、LGBT。
このLGBTという言葉を、僕はこれまで知らなかったのだけれど、調べて見ると、「Lesbian/Gay/Bisexual/Transgender」の頭文字をとったものであることがわかった。
性的な少数者を表す造語で、この「LGBT」をテーマにした映画が、オスカー作品賞を受賞したのは、史上初、とのことらしい。
テーマがテーマだけに、「ラ・ラ・ランド」のように、気楽に楽しめる映画ではない。
「ラ・ラ・ランド」も、決して明るく楽しいだけのストーリーではなく、実は切ない映画なのだけれど、でも、それは《日常》として存在する切なさだ。
所々にミュージカルシーンが織り込まれるせいで、ストーリーは一見突飛に見えるが、根本のストーリーは、「普通の」男女の恋愛劇だと思う。
だから、その結末に賛否両論はあるものの、余韻は穏やかだ。
僕は、エンドロールで一瞬切ない気分になったが、ほどなく、前半の圧倒的な明るさが恋しくなった。
ところが。
この「ムーンライト」は、違う。
「ラ・ラ・ランド」と同じく、愛と切なさをテーマにした作品ではあるけれど、この作品に出てくる愛は、そのベクトルが全く異なるからだ。
映画としては、非常に良くできていると思う。
冒頭。主人公シャロンの少年時代に、彼を救う役を演じたマハーシャラ・アリが素晴らしい。
たった十数分しか登場しないのに、圧倒的な存在感。オスカーの助演男優賞を獲得したのも、納得だ。
そして、シャロンの少年期、多感な10代、20代をそれぞれ演じた、黒人俳優たちの演技も見事。
俳優が変わっているのに、全く違和感がなく、「シャロン」として繋がっていた。
ストーリーの構成も申し分ない。
非常に重たいテーマでありながら、肝心なところは(性的なシーンも含め)泥臭く描かず、あっさりと切り替えている。その手法は見事だと思う。
だから、これがオスカー作品賞なのだ、と言われれば納得の内容ではあるのだけれど、ただ、「ラ・ラ・ランド」のように、誰にでも手放しで勧められるような作品ではない。きっと、人を選ぶ。
よくできた映画だとは思うから、僕も、もう1度見るかもしれないが、そのときは、メディア化された後、ひとりで、部屋でじっくり見たい。
「ラ・ラ・ランド」は、映画館で見た方が絶対に楽しめるので、まさに好対照の映画、だと思う。