極寒のシカゴ川クルーズを終えた僕は、まさに這々の体だった。
防寒着を持たずに乗船してしまったため、冷たい風と雨にやられて、凍えまくっていたのだ。
寒い。寒すぎる。体じゅうが震えていた。
ホテルまでの道程は、そんなに遠くなく、クルーズに向かった時は、10分もかからなかった、筈。
しかし、この時は、その道程が果てしなく遠く思えた。
短距離過ぎてもったいないけれど、タクシーにでも乗るか、と考え始めた矢先…ビルの入口越しに、派手な赤い看板が目に留まった。
その名は、「老四川」。
僕は、ビビッときた。
この店に入れば、きっと身体が暖まる、美味しい料理が食べられる筈、と思ったのだ。
高級中華料理店という趣を醸し出していたので、一瞬ためらったけれど、凍える身体が、僕の背中を押した。
店舗への専用エレベーターに乗って、4Fに上がると…。
店内はとても広く、カジュアルな雰囲気だった。
その情景を見る限り、店舗入口で感じたほどの高級感はなく、庶民的な中華料理店に見える。
僕は、ちょっとほっとしながら店員に声をかけると、すぐに席まで案内してもらえた。ラッキーだ。
座席に置かれていたメニュー。
それは紙製の簡易なもので、高級感とは程遠かった。メニューの裏面には、沢山の住所が書かれている。
どうやら、シカゴでは有名なチェーン店のようだったので、僕は大いに胸をなで下ろした。
これならば、リーズナブルに、気楽に料理が選べるからだ。
メニューを開くと、まず、北京ダックが登場。
流石にこれはちょっと高級そうだ。でも、それでもそんなに高くない。
これならば安心と思いながら、メニューを眺めて…。
湯類。スープを発見!
それは、体じゅう冷え切った僕が、最も求めていたものだった。さまざまな種類が並んでいたけれど、一番高くても、$8.95。お得だ。
数あるスープの中で、僕が選んだのは、「雲呑湯」。
これは、実に安くて$2.95。
シカゴのど真ん中にある店なのに、こんな価格でワンタンスープが味わえるなんて!迷う理由がなかった。即、注文。
待つこと5分程度…。
雲呑湯が来た!
小さい器で、ボリューム的にちょっと物足りない感じだったが、$2.95という低価格だし、文句はなかった。
足りなければ、もうひとつ注文すれば良いのだ。
器は小さいものの、その中には、ずっしりとした重量感のあるワンタンが3個も入っている。
僕は、ひとまず、身体に暖かいスープを流し込み(あぁ、この瞬間が本当に幸せだった!)そして、ワンタンを囓った。
あぁ、美味しい。美味しいなぁ。僕は、その優しい味に酔いしれた。
湯気に曇ったレンズが、この料理の温もりを示している。
あぁ、この店を見つけることができて良かった。身体が温まって良かった。心からそう思った。
いのちのワンタンスープで生き返った僕は、再びメニューに目を向けた。
身体はもう大丈夫。食欲は十分ある。ならば、僕の選択は決まっていた。