僕にとって、人生二度目の胃カメラ検査。
前回検査を受けたのは、十数年前。今、思い出しても、そのつらさが蘇る、地獄の苦しみだった。
しかし、今回、僕は、ちょっと甘く考えていた。
健康診断のバリウム検査で、胃カメラでの二次検査通告がなされ、しばらく検査をためらっていた僕に、同僚が次のように告げたからだ。
「今の胃カメラは、麻酔があるので、全然苦しくない。バリウムよりむしろ楽」
この言葉が、ためらう僕の背中を押した。
最近は、医療技術も進んでいるので、「きっと十数年前より格段に楽になったのだろう」と思い、すぐに検査を予約。
二か月待ちになってしまったが、ようやく昨日、検査日に至った。
健診会場に到着。
平日の朝一番で予約できたため、受付もスムーズだった。
すんなり終わって、かつ、検査結果も問題なければ、かなり心が楽になるだろう…と思った。
しかし、その後、僕はその考えが甘かったことを思い知らされる。
僕の順番が呼ばれ、看護師の人に説明を聞いている時から、不安は高まっていった。
液体麻酔(?)というものを3分間含まされたあと、検査の説明になったのだけれど…。
「管が喉を通る時が一番苦しいと思いますけれど、何とか我慢を」
「バリウムと同じで、げっぷは我慢してください」
「どうしても痛くて我慢できなくなったら、右手を上げて合図を」
我慢、我慢、我慢の連発。…そんなに我慢しなければいけない検査なのか?バリウムより全然楽じゃなかったのか?
僕の不安は大いに高まっていった。
不安げに話を聞く僕の表情を見て、看護師は、次のように言い募った。
「色々言いましたけれど、検査が始まったら、忘れてもらっても大丈夫です。検査が始まったら、何も考えられなくなりますから、あとは先生に身を任せてください。」
えっ、それは、何も考えられなくなるほど痛いってこと…か?
僕は、ますます大きくなる不安を抱えながら、検査室に入った。
いざ、検査が始まる前も、一苦労だった。
胃カメラを口から挿入するため、ベッドの上で横向きに寝なければいけないのだけれど、右の肋骨部分が痛くて、スムーズにその所作ができなかったのだ。
しかし、何とか横になって、いざ、検査開始。
胃カメラの管が口の中に挿入され、そして、喉へ…。
うわ。もうダメ。無理。やめてくれ。許して。頼む。
僕はそう心で叫んでいた。いい年のおっさんが何を言ってるんだ、と思われるかもしれない。でも、心じゃなく声を上げて叫びたいほど、苦しかった。
しかし、口は開きっぱなしで声は出せないし、身体は看護師に押さえつけられている。
管が喉を通る瞬間は、まさに地獄の苦しみだったし、その後も、喉の圧迫と、身体の中でうごめく感触が本当に気持ち悪くて、オエオエという声なき声を上げ、涙を流しながら、僕は耐える羽目になった。
液体麻酔なるものが、僕の場合は効かなかったんじゃないか…?と思うぐらい、僕は悶絶し続けた。
どれくらい時間がたったろう…。
実際は10分も経っていなかったんだろうと思うけれど、僕は、フルマラソンを走り続けているかのような、長い、長い時間に感じた。
しかし、終わった!
僕は安堵に胸をなでおろし、先生からの言葉を待った。悶絶するほど苦しんだ検査は終わったが、診断結果次第では、「終わり」ではなく、あらたな地獄の「始まり」となる可能性もある。
だから全く油断はできなかった。
固唾を飲みながら、その言葉を待っていると、先生曰く…。
「詳しい結果については、あとで郵送いたしますが、とりあえずは、軽い胃炎と、良性のポリーブのみでしたので、安心していただいてよいと思います」
との旨。
よかった!
昨年11月の健康診断の後も、胃の奥が痛んで走れないなどということもあったから、僕は、万が一の、最悪の事態も想定して、胃カメラに臨んだ。
だから、とりあえずはひと安心だ。
胃カメラ検査終了は、朝の9時40分。
思ったよりも早く終わったので、僕は、もうひとつの不安を払拭しておくことにした。
整形外科の受診だ。
胃カメラ検査を行ったセンターには整形外科がなかったので、自宅の近所に戻ってから、別の病院へ。
整形外科は、リハビリ患者などが多く、満員になっているのが常なのだけれど、昨日は、天気が悪いこともあり、かなり空いていた。
僕は、担当の先生に痛みの状況を説明し、X線を撮影。その結果…。
一応、骨折などの心配はない、とのことだった。ここでもとりあえずひと安心。
ただ…肋骨部分は、細かい骨が多く、かつ、重なっているため、軽いヒビなどは判別できないとの旨。
先生によれば、とりあえず、現状、根本的な解決策はなく、「とりあえずは湿布で様子を見ましょう」ということだった。
問診の段階で、先生に、日曜日にマラソンを走っていたことを話すと、「その影響で骨が歪んで損傷している可能性はあるかもしれない」とも言われた。
痛みが出たのは、火曜の夜からだったが、肋骨に損傷などが生じた場合、痛くなってくるのは48時間後ぐらい…とのことだったから、辻褄は合う。
僕はこれまでも肋骨を(転倒で)損傷しているが、その時と同じようなケースになっている感じだ。
となると、経験上、これから1週間ぐらいは痛みが引かない可能性が高い。
あとは時間が解決するしかないようなのだけれど、何だかどうにもやりきれない。
折角、別大の口惜しさをバネに、リベンジに燃えていたのになぁ…。
何だかその思いをいきなり殺がれてしまったようで、ちょっと切ない。