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息を呑み続けた106分間の「告白」タイム

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週末のレイトショーで鑑賞。

評判の良さはダテじゃなかった。普段、邦画に殆ど興味の持てない僕が見て、冒頭からグイグイ引き込まれてしまった。劇場全体が息を呑んだ106分。衝撃の告白劇。
この映画に少しでも興味があるのならば、以下の駄文を読むことなく、すぐにでも劇場で見て、凄さを味わってもらいたい。先入観なく見た方が楽しめる映画だから、僕の言葉は邪魔になる。ただ、僕なりに、見終わった感想を書き残しておきたいので、ネタバレに十分注意して書いてみたい。
同題となる原作は、湊かなえ氏の作家デビュー作。その衝撃的な内容から、デビュー作にして大きな話題となり、週刊文春ミステリーベスト10で1位を獲得したり、本屋大賞まで受賞した作品だ。
恥ずかしながら、僕は未読だった。発売直後から、かなり興味はあったものの、読後感が悪い「イヤミス」という評判が高く、僕の趣向とは違うなぁと思っていたからだった。
ただ、この春に文庫化されたということもあり、また、発作的に映画を見たくなったので、鑑賞前日に慌てて購入。映画が始まる数分前に何とか読み終えた。映画を見てから読むという手もあったのだろうけれど、折角事前に買ったのだから…ということで、何とか映画前に読了しておきたいと思ったのだ。
原作読了。その、唖然呆然の結末に戸惑う暇もなく、映画本編に突入。映画の内容は、その原作に驚くほど忠実だった。登場人物たちそれぞれの視点による「告白」が、この小説のキモなのだけれど、映画でもそれは完璧に再現されている。
そして、個人的な感想を言えば、小説を大きく超えている。
これは本当に凄いことだ。何しろ小説を読み終わったばかり、しかも原作に忠実な内容となれば、映画を見ても白けてしまう可能性があった。しかし、そうはならない。なぜか。それは映画の内容が小説を陵駕しているからだ。
もちろん、小説は凄い。この素晴らしい原作があっての映画。それはわかっている。しかし、それでも尚、僕は、映画の、映像の凄さを感じずにはいられなかった。
映画を見終わった後、僕なりにその理由を考えてみた。何より凄いのは、「多角的な視点」であることだと思う。原作の小説は「1人称」で進んでいくから、周りの情景は見えない。1人称で語られる告白の裏側は、自分の想像力で補うしかない。
しかし、映画は、違う。1人称で語られるという情景は同じでも、その語りの後ろで、他の情景が描ける。そしてその描き方が素晴らしいのだ。
「愛娘を校内で亡くした女教師」による衝撃の告白から、この物語は幕を開ける。
雑談で荒れまくる教室内での静かな告白。最初は誰もかれもが、教師の発言に無関心で、勝手な行動をとっていた生徒たち。しかし、「娘は事故死ではなく、殺された。それも、このクラスの生徒に」という発言以降、クラスの空気は一変する。
そう、この《一変》する空気が、まさに映画ならではの醍醐味なのだ。1人称の小説では味わえない、映画ならではの。
これはあくまで、この映画の凄さを示す一例にしか過ぎない。このような形の緊張感、凄さが106分継続する。だから、原作に忠実でありながら、原作を超えているのだ、この映画は。
登場人物たちは、皆それぞれ輝いているが、中でも松たか子が凄い。凄すぎる。前述の女教師役で、前半は静かに、淡々と語る口調がメインなのだけれど、だからこそ、後半に再度登場する時の印象が強烈。
特に、原作にはない「あの」一言に、僕は度肝を抜かれた。松たか子凄ぇ、ほんとに凄ぇ女優だと。彼女なしでは、この映画は成り立たなかったのではないかと思う。それほどに、凄い。
とにかく、見て欲しい。僕の中では、「アバター」と並んで今年のベストワン候補の作品。アバターの高評価は視覚効果によるものが大きいので、ストーリーだけ単純に比較するなら、この作品の方が上かもしれない。超おススメ。


映画のパンフレットには、クラスの生徒37人の顔写真入り名簿が載っていた。名前はもちろん、仇名や、所属する部活名まで記載されている。おそらく、原作ではここまで造形されてなかった筈だから、ちょっと驚いた。これを見て思ったことは、あぁ、制作側では「37人の13歳が告白」「先生の娘を殺したのは誰?」というキャッチコピーにこだわっているのかなぁ…ということだった。
ただ、僕は、このキャッチコピーは如何なものかと思っている。だって、この物語のテーマは、犯人捜しなどではないからだ。犯人なんて、映画が始まってすぐに特定される。「37人の生徒」と言っても、映画内で個を判定できるのは、10人もいないのではなかろうか。
それでもまぁ、こういった細部にまでこだわったからこそ、この映画のリアリズムが生まれたとも言えるわけだから、文句をつけるのはやめよう。とにかく、見てもらえばわかる。見てもらえば、ポスターとの相違点などといったような思いが吹き飛んでしまうことは確実だから。


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